研究実績の概要 |
リンパ管は体液の恒常性の維持・脂肪の吸収・免疫に必須であり、病理面では癌や浮腫あるいは様々な炎症性疾患で重要な役割を果たす事が知られる。即ち、リンパ管形成に関する理解は、リンパ管が関与する様々な生命現象の真実に迫るとともに、新たな治療戦略の開発につながると言える。しかし、リンパ管内皮細胞が増殖・進展しながら、そのネットワーク構造を形成していく機構については不明なことが多い。血管の形成過程では、血管内皮細胞は体節由来や神経由来の遺伝子によりガイダンスを受けており、リンパ管でも同様の機構の存在が考えられた。そこで、本研究では、メダカを用いたin vivo イメージングと末梢神経の走行操作、神経由来ガイダンス遺伝子の発現操作等により、末梢神経がリンパ管形成に与える影響とその機構を明らかにすることが目的であった。 しかし、メダカでは血管とは逆に、神経束より先にリンパ管形成が進むことが示唆された。そこで、哺乳類でリンパ管形成マスター遺伝子と言われるProx1のメダカホモログであるprox1aの機能欠損実験(Knock Out, KO)を、近年開発されたゲノム編集技術を用いて行い、神経束の形成に影響が見られるか検証した。しかし、前年度に得られたprox1a KOホモ個体を観察では、リンパ管の形態には何ら異常が見受けられなかった。これには、ゲノム編集部位がprox1aの前方であったため、後方の機能ドメインが残ったsplice variantが作られて機能欠損できなかった理由が考えられたので、今年度は後方の機能ドメインを壊すゲノム編集を行い、新たに2種類のprox1a KO系統を得、これらのホモ個体を観察したが、結局、リンパ管の形態には何ら異常が見受けられなかった。この結果は、魚類においてprox1は、リンパ管の形態形成には関わらないという、哺乳類と異なる機構の存在を示唆するものである。
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