研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
25123703
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡辺 啓介 新潟大学, 医歯学系, 助教 (20446264)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経発生 / 大脳皮質 / 細胞移動 / 恐怖行動 |
研究実績の概要 |
私たちはこれまで哺乳類大脳皮質の発生メカニズムに注目し、複数回膜タンパク質Dpy19L1が発生期マウス大脳皮質に強く発現し、神経細胞移動に深く関わること明らかにした。哺乳類において、Dpy19は4つの遺伝子からなる膜タンパク質ファミリー(Dpy19 Like1-4)を形成するが、Dpy19L2が男性型不妊症の一つである巨大頭部精子症の原因遺伝子であるなど、ファミリーメンバーとヒト疾患との関連性が近年報告されている。しかしながら、中枢神経系の発生・機能におけるDpy19ファミリーの役割については未知な点が多く残されている。そこで本研究課題は、Dpy19L1の分子機能とその遺伝子異常による脳構築異常、さらには情動行動など個体の行動にいかに関わっているかを解明することを目的としている。本年度は、Dpy19L1ノックアウト(KO)マウスを作製し、解析を行ったところ、恐怖反応が著しく減弱していることを新たに見出した。Dpy19L1 KOマウスは、多くの個体が生後1日以内に致死になり、一方で少数のKOマウスは野生型と比べ低体重を示すが生存できることがわかった。生存したDpy19L1 KOマウスは飼育者を怖がらない傾向を示したため、先天的な恐怖反応の異常の可能性を考え、忌避反応試験を行った。野生型マウスは天敵であるキツネの排泄物の臭い成分であるトリメチルチアゾリン(TMT)に対して忌避反応を示すのに対して、Dpy19L1 KOマウスは忌避反応が著しく低下していることが示された。組織学的解析を行った結果、Dpy19L1 KOマウスにおいて、嗅覚系に深く関わる前交連に投射異常が観察された。さらにそれ以外の脳領域においても細胞構築異常を見出している。これらの結果から、Dpy19L1が大脳辺縁系の神経回路形成を制御しており、情動行動特に本能的な恐怖行動の獲得に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Dpy19L1 KOマウスの多くは生後1日以内に致死になってしまうこと、さらに昨年度行われた動物施設改修の2点から、マウス個体を用いる実験に大幅な遅延が生じてしまった。今年度は新施設でのマウスの繁殖に成功したため、生後のDpy19L1 KOマウスを用いた研究を進めることが可能となった。生存したDpy19L1 KOマウスの行動を注意深く観察した結果、飼育者の手から逃げないなど、人に対する警戒心が明らかに低下しているなど異常な行動をとることがわかった。そこで、上述したTMTを用いた忌避反応実験を実施したところ、KOマウスは野生型が示すTMTに対する忌避反応が著しく低下していることが示された。さらに生後のKOマウスを用いた組織化学的な解析を行った結果、胎生期に観察された前交連の投射異常が生後2ヶ月齢でも観察されたこと、また他の脳領域においても細胞構築異常が存在することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
Dpy19KOマウスにおいて、忌避反応異常がみられることを明らかにした。これまで解析に用いたDpy19L1 KOマウスは全身でDpy19L1を欠損するnullマウスであるため、中枢神経系に発現するDpy19L1が忌避反応異常に重要であるかは示せていない。そこで中枢神経系神経前駆細胞にCreリコンビナーゼを発現するNestin-Creマウスを用いて、中枢神経系特異的Dpy19L1 コンディショナルKO(cKO)マウスを作製中である。現在まで数匹のcKOマウスを得ているが、今後繁殖させ、TMTを用いた忌避反応試験を実施する。また、cKOマウスにおいて組織化学的な解析を進め、Dpy19L1 KOマウスと同じような神経回路構築異常が観察されるかを検討する。また、Dpy19の細胞内局在と機能についても不明な点が多いため、培養細胞を用いた強制発現実験を継続して遂行する。COS-7細胞にDpy19L1-GFP発現プラスミドを導入した結果、Dpy19L1-GFPが小胞体、核膜に局在することを示したが、今後はタイムラプスイメージング等の技術を用いて、より詳細な局在、動態を検討していく。また、マウスNeuro2a細胞が内在的にDpy19L1を発現することを見出したため、siRNAを用いたDpy19L1の機能阻害実験を行うことで、Dpy19L1の細胞内での機能について検討していく。
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