私たちはこれまで哺乳類大脳皮質の発生機構に注目し、膜タンパク質Dpy19L1が発生期マウス大脳皮質に強く発現し、神経細胞移動に関わること明らかにした。哺乳類においてDpy19は4つの遺伝子からなるファミリー(Dpy19 Like1-4)を形成する。近年ファミリーとヒト疾患との関連性が報告されたが、神経系の発生・機能におけるDpy19の役割についてはほとんど明らかになっていない。そこで、Dpy19L1の分子機能とその遺伝子異常による脳構築異常、さらには個体の行動にいかに関わるかを解明することを目的とした。作製したDpy19L1 KOマウスは、多くの個体が生後1日以内に致死になる。これまで生存したDpy19L1 KOマウスが天敵であるキツネの排泄物の臭い成分の一つであるトリメチルチアゾリン(TMT)に対する忌避反応が著しく低下していることを明らかにした。今回、Nestin-Creマウスを用いて作製した中枢神経系特異的Dpy19L1 コンディショナルKOマウスにおいても同様の結果が得られたことから、観察された忌避反応の低下は中枢神経系に発現するDpy19L1に原因があると考えられた。組織学的解析を行った結果、生後のDpy19L1 KOマウスにおいて中隔野周囲の領域に顕著な細胞構築異常を見出した。また、Dpy19の細胞内局在と機能についても不明な点が多いため、培養細胞を用いた強制発現実験を行った結果、Dpy19L1が小胞体に強く局在することが明らかになった。さらにDpy19L1が微小管と相互作用をもつ可能性が示唆された。さらに、マウスNeuro2a細胞が内在的にDpy19L1を発現し、機能阻害実験によって細胞突起の伸長が抑制された。これらの結果から、Dpy19L1が神経細胞の軸索伸展・投射を制御することで神経回路網形成に関わり、さらにマウス個体が示す先天的な恐怖行動の誘発に関わることが示唆された。
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