抗てんかん薬バルプロ酸(VPA)の妊娠初期の服用は奇形及び自閉症発症頻度が上昇させることが知られている。VPA服用による自閉症発症の原因としては、齧歯類を用いた研究から、神経伝達物質、例えばセロトニンの海馬における濃度上昇やドーパミンの前頭葉皮質での濃度上昇等の影響が示唆されているが、本代表者が今回提案した神経幹細胞の増殖・分化制御の観点からの研究はほとんどなされていない。 そこでこれまでに、妊娠12~14日目マウスにVPAを300mg/kg/dayで投与し、胎生15日目と生後7日目のニューロン分化と層構造解析を行った。その結果、バルプロ酸の投与によって、神経幹細胞からニューロンへの分化が促進されると同時に、深層ニューロンの産生が減少しかつ浅層ニューロンの産生が亢進することが分かった。また、培養系においても発生段階依存的な神経幹細胞の性質変化をある程度再現できるES細胞を用いた実験において、VPAに上述と同様の作用、つまり、深層ニューロン産生を減少させ、浅層ニューロ産生を亢進させる作用が観察された(Neurosci Res 2012)。さらに本年度は、VPAと同じくヒストン脱アセチル化酵素阻害在としての機能が知られる、Suberoylanilide hydroxamic acid(SAHA)を同様に妊娠マウスに投与したところ、VPA投与の場合と非常に類似した表現型が観察された。加えて、VPAの類似体でヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を持たないバルプロミド(VPM)にはこのような表現型は見られなかったとことから、以上の結果は、神経幹細胞が深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生へと性質を変化させる際に、ヒストン脱アセチル化酵素が重要な役割を果たしているものと考察される。
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