公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
哺乳類において6層構造からなる大脳新皮質は、様々なサブタイプのニューロンとグリアで構成される。これらの細胞は、胎生期に共通の神経幹細胞から発生依存的に産生される。神経幹細胞は、自己複製を繰り返すことで細胞数を増加させた後、まず6層、5層の深層ニューロンを、その後4層、3層、2層というように浅層に配置されるニューロンを順番に産生し、最後にアストロサイト、オリゴデンドロサイトなどのグリアを産生する。これまでに、神経幹細胞がニューロンからアストロサイトへと分化能を変化させる過程では、サイトカインなどの細胞外シグナルとDNAメチル化等のエピジェネティックな制御が、細胞分化を運命づけることが明らかとなっている。しかし、神経幹細胞が深層から浅層ニューロンへと分化能を変化させる機構には未だ不明な点が多い。母体内において、胎仔脳内の酸素濃度は1-5%程度の低酸素状態にある。我々は、胎生11日齢のマウス胚より単離した神経幹細胞を、生体内における環境を模倣した低酸素濃度で2-3日培養することで、通常培養(大気酸素濃度)では産生が難しかったSatb2陽性の浅層ニューロンへの分化効率を飛躍的に上昇させることを見出した。このSatb2陽性ニューロンは、低酸素誘導因子Hif1alphaをノックダウンした神経幹細胞の低酸素培養では産生数が減少するため、Satb2遺伝子の発現制御に転写因子Hif1alphaが関与することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
浅層ニューロンのマーカー遺伝子の一つとして知られるSatb2遺伝子の発現に、低酸素誘導因子Hif1alphaが関与することを見出した。Satb2遺伝子プロモーター領域に、Hif1alpha結合配列(HRE)も確認済みであるため、転写因子Hif1alphaが浅層ニューロンへの分化を制御する重要な因子の一つである可能性が非常に高い。
本年度は、Hif1alphaの機能を生体において解析するため、胎生中期の神経幹細胞に子宮内電気穿孔法を用いてHif1alpha特異的shRNAを導入、Hif1alphaの発現減弱を誘導することで標的の神経幹細胞が産生するニューロンのサブタイプを解析する。一方、低酸素培養によって誘導されるSatb2発現の全てがHif1alphaのノックダウンでキャンセルされるわけではない。すなわち、Hif1alpha以外にも浅層ニューロンの分化誘導に寄与する転写因子、クロマチンリモデリング因子等の存在が予想される。今後はこれらの探索を含めて、胎生期の神経幹細胞に特徴的な深層から浅層ニューロンへの分化能変換の分子機構、その全体像の解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Journal of Neuroscience
巻: 32 ページ: 12987-996
23926254