脳室下帯に選択的な発現を示す遺伝子のうちリーリン受容体ApoER2に着目した。ApoER2機能阻害の脳室下帯内のニューロン移動への影響を調べるために、子宮内電気穿孔法により、胎生14日の脳室帯で誕生したニューロンにApoER2ノックダウンベクターを導入し、48時間後に固定し解析した。その結果、多極性細胞の神経突起数の減少がみられ、脳室下帯付近での細胞移動パターンが異常になった。また、生後7日で観察したところ、表層ニューロンの配置が深部へとシフトした。これらの結果は、ApoER2が正常な多極性細胞移動と皮質層形成に必要であることを示唆している。一方、ApoER2ノックアウトマウスでは皮質層構造が部分的に異常になることが報告されているが、脳室下帯における影響は未だ報告がない。ApoER2 KOマウスにおける脳室下帯内でのニューロン移動への影響を調べるために、脳室帯で誕生したニューロンを標識し、48時間後に細胞分布を解析した。その結果、ノックダウンと異なり細胞分布および神経突起形成に異常が認められなかった。この結果からもうひとつの主要なリーリン受容帯であるVLDLRがApoER2の機能を補償している可能性が考えられた。 リーリンシグナルの下流で制御される因子として最近、細胞接着分子N-カドヘリンおよびインテグリンalpha5beta1の関与が報告された。多極性ニューロン移動においてApoER2の機能にこれらが関与するかを検討するために、ApoER2ノックダウンと同時にN-カドヘリンおよびインテグリンalpha5beta1の強制発現を行った。その結果、N-カドヘリン強制発現によりApoER2ノックダウンの表現型が一部レスキューされることが明らかになった。この結果は、ApoER2の脳室下帯における機能にN-カドヘリンによる細胞接着制御が関与することを示唆している。
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