公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
大脳新皮質の神経回路は、発生過程で決まった時期に正確な種類と数の神経細胞(=ニューロン)がつくられることで高度な情報処理を担っている。大脳新皮質を構成するニューロンの中でも、皮質―皮質間の情報伝達を担う上層ニューロンは脳の高次機能に直接関わっているが、その発生機序については不明な点が多い。これまで大脳皮質ニューロンの産生は、神経幹細胞が経時的に分化能を制限することで、深層ニューロン-上層ニューロンを順次つくると考えられてきたが、近年の報告では、発生の早い段階から上層ニューロンのみに寄与する神経幹細胞の存在も示唆されている。そこで、本研究では大脳皮質上層ニューロンの分化機構を明らかにするために、大脳皮質ニューロンの数と分化のタイミングを生体内で操作することで、上層ニューロンの発生機構について検討を行った。その結果、1)大脳皮質上層ニューロンの分化のタイミングが深層ニューロンの産生に密に連携していること、2)深層ニューロン-上層ニューロンの産生順序が、神経幹細胞の転写因子カスケードにより規定されていることが示された。さらに、深層ニューロンから上層ニューロンへの産生の切り替えが、先に分化した深層ニューロンからのフィードバックシグナルにより制御されていることが明らかになった。これらの結果から、大脳皮質の上層ニューロンの産生は、細胞自律的にコードされる遺伝子プログラムと周囲のニューロンからのシグナルを統合することで、進化の過程で顕著に拡大した大脳新皮質においても深層-上層ニューロンの数的バランスを保つようなしくみを用いていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究により、大脳皮質の上層ニューロンの分化は細胞自律的にコードされている遺伝子プログラムと、外因的なシグナルを統合することによって深層-上層ニューロンの産生バランスを保つという新たなしくみが明らかになり、計画は順調に進展しているといえる。
初年度の解析により、深層ニューロンから上層ニューロンへの産生切り換えを調節する機構について、細胞自律的制御、および非自律的制御の寄与が明らかになった。そこで平成26年度は各機構について詳細な検討を進める。特にこれらの機構について対称および非対称分裂を要するのか、またフィードバックの制御様式、分泌性シグナルによる制御、および細胞間の接触依存性等について検討を進める。また、これらの機構を介して実際にin vivoで上層ニューロンの分化のタイミングを操作できるかについて検証するために、各ステップを人為的に操作することで、上層ニューロンの分化時期や産生数について評価を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
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Cerebral Cortex
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