公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では、ヒトの病原性細菌であるA群レンサ球菌が感染細胞内でファージの誘導および獲得を行っていることを実証するとともに、ファージ獲得を介したゲノムアダプテーションメカニズムと病原性進化機構を明らかにすることを目的とする.これまでのドラフトゲノム解析からA群レンサ球菌ゲノムの約1/5が細菌のウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)由来であること、また各菌株の特異的な遺伝子群の多くがファージ由来であり、そのほぼすべてのファージに病原性に関与する遺伝子群が多数存在することが明らかとなった.しかし、大腸菌のλファージなどの研究と比較すると、レンサ球菌属でのファージについては、その誘導機構、感染メカニズムについてはほとんど明らかとされていない.一般にファージが細菌に感染すると溶原化および溶菌化することが知られているが、A群レンサ球菌ファージについては溶菌化のメカニズムについても知られていない.そこで、各菌株を様々な薬剤や紫外線刺激によりファージの誘導による溶菌化が起きるのかどうかについて検索を行ったが、菌のみの状況では溶菌化だけでなく、溶原化も観察することができなかった.そこで、ファージ領域の複数の遺伝子について蛍光タンパクとの融合体を染色体上に導入する菌株を作成し、溶原化した菌株を可視化できるようなシステムを構築した.この菌株においても菌だけでは溶菌化・溶原化は観察されなかったが、宿主細胞に共感染させることで、一部の菌株で溶原化が起きる事が確認された.この結果は、菌のみではなく、宿主の存在下で初めて他株間でのファージの溶原化が起きる事を示しており、菌のアダプテーションに宿主が必要であることが示された.
2: おおむね順調に進展している
研究開始当初は、溶原化・溶菌化の指摘条件が定まらず、研究の遅延の恐れがあったが、菌の染色体上での遺伝子操作によりファージ領域内に蛍光融合タンパクを導入することに成功したため、溶原化のスクリーニングが進めることができた.残ねながら、宿主細胞内でのファージ伝播の部位については、特定できていない.これは、ファージ粒子内での蛍光タンパクが、ファージの構成タンパク質をターゲットとしたものではないため、そのトレースが非常に難しいことが理由として考えられる.しかし、少なくとも今まで試験管内では観察されなかった溶原化の現象が宿主細胞内でのみ起きることは観察されたため、現在は、ファージ粒子そのものを可視化できるような変異体の作成をさらに行っている.また、宿主細胞については、昨年度に当初予定をしていなかったCas9を用いた遺伝子破壊株の作成が予想以上に進展したため、宿主側の各種遺伝子の変異体を利用できるようになったことから、宿主細胞内での菌の動態については、予想以上の解析が進んでいる.CRISPR領域の変動については、現在までのところ、その変動については観察されていない.これは、溶原化が観察されているため、ファージの排除が起きていないことに由来すると考えているため、今後さらに菌株の種類(特に、血清型が同じ菌株では、基本的にはファージは排除されず、血清型が異なる菌では排除されることが予測されている)を変えることによりCRISPRによって排除される外来性遺伝子のパターンを解析することが可能になると考えている.
オートファジー誘導の必須遺伝子であるAtg5欠損細胞および通常の細胞でファージを獲得したレシピエント株(計画書では2株)と親株の3株での遺伝子発現をRNA-seq解析により、全遺伝子の発現変動解析を行い、株間での比較を行なう。ファージ感染の前後で発現が変化した遺伝子は、プロファージによる発現制御されている可能性がある。必要に応じ、プロファージ遺伝子の欠損株(KO株)を作製し、遺伝子発現を調べることで、制御されていることを確認する。ファージ獲得前後の株をそれぞれ、ヒト上皮細胞に感染させ、共焦点レーザー顕微鏡観察により細胞内動態を解析し、これらの株が宿主による認識の有無、オートファジーによりどの程度ターゲットされているかを明らかにする。また、細胞内での経時的な生細菌数の推移を、株間、オートファジー正常/不全細胞間で比較することで、オートファジーへの抵抗性を評価する。このように、獲得したファージによる遺伝子発現の制御によって、本菌の病原性がどのように変化し、宿主免疫応答に対して抵抗性を発揮するのか、そして宿主細胞内環境にいかに適応するのかを検討する.期間内に可能であれば、オートファジー存在下でファージの獲得によりオートファジーへの抵抗性を獲得した株をマウスに感染させ、マウスの致死率(LD50)や各種臓器/組織における菌数を測定し、これに感染症状のスコアリング結果を加えることで、in vivoでの病原性の評価を行う。これらの結果から、ファージ獲得を介したゲノムアダプテーションメカニズムと病原性進化機構を明らかにすることができると考えている.
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (21件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Clinical Microbiology and Infection
巻: - ページ: -
10.1111/1469-0691.12400
Cell Host and Microbe
巻: 14 ページ: 604-606
10.1016/j.chom.2013.11.012.
Molecular Cell
巻: 26 ページ: 794-804
10.1016/j.molcel.2013.10.024
GENOME BIOLOGY AND EVOLUTION
巻: 5 ページ: 1099-1114
10.1093/gbe/evt075.
Appl Environ Microbiol.
巻: 79 ページ: 2796-2806
10.1128/AEM.03742-12.
Genome Announcment
巻: 1 ページ: e00016-12
10.1128/genomeA.00016-12
http://www.tmd.ac.jp/grad/bac/