研究領域 | ゲノムアダプテーションのシステム的理解 |
研究課題/領域番号 |
25125712
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山縣 一夫 大阪大学, 微生物病研究所, 特任准教授(常勤) (10361312)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 初期胚 / マウス / 染色体分配 / 不均一性 |
研究概要 |
着床前初期胚発生では、1つの細胞を数日の間に100個近くまで増殖させる。その間、確実な個体発生を保障するべく、遺伝情報は正確に複製・分配されると考えられているが、実際は必ずしもそうではないことが近年の生殖医療研究から明らかになってきた。驚くことに、不妊患者由来の卵割期胚のおよそ80~90%において分配に起因する染色体異常があると報告されている。我々は、独自に開発したライブセルイメージング技術を用いて、マウス初期卵割時の染色体分配を観察してきた。その結果、健康個体の通常受精胚でさえ多くの胚で異常な染色体動態が見られた。一方で培養条件への摂動により異常の割合は増えても、正常なものも存在した。以上から我々は、初期胚はストレスや加齢など外的環境変化に対しても確実に産仔を保障するため、敢えて性質を不均一にさせることで一部の胚を生き残らせて遺伝情報の継承を確約しているのではないかと着想した。このような視点の元、本研究では「初期卵割時の染色体動態を定量化する技術を完成」し、それを用いて「胚の不均一性を数値として表す」ことを目的とする。平成25年度は、これまでの初期胚ライブセルイメージング技術を大きく発展させ、より詳細に胚の染色体正常性やその動態を評価できる方法へと改良した。具体的には、共焦点ユニットのスピニングディスクを変更し、カメラの解像度を4倍向上させることで、生きたまま卵割期胚のM期染色体1本1本を識別できるほどに画像・時間分解能を向上させた顕微鏡システムを構築した。なお、本成果の一部については、科研費「若手研究A」の支援によって達成している。加えて、ヒト卵割期胚の長時間高解像イメージングに成功した。本実験は、ヒト余剰胚提供元である浅田レディースクリニック、および実験場所である大阪大学微生物病研究所の両倫理委員会、日本産科婦人科学会への登録を経て行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書において平成25年度は、「初期卵割時の染色体動態を定量化する技術を完成」を目的に、顕微鏡システムの改良といったハードウェア面、また画像解析技術の向上というソフトウェア面での検討を予定していた。加えて、染色体正常性を評価しうる新規プローブの開発についても考慮していた。このうち、顕微鏡システムについてはその大幅な改良を行い、結果として卵割期胚M期染色体を高精細に観察することに成功した。ソフトウェア面では、細胞核の自動認識アルゴリズムの精度向上を達成しているが、大量の胚から自動的に各種特徴量を抽出する段階は次年度に譲っている。新規プローブについては共同研究ベースで染色体のセントロメアやヘテロクロマチン領域を特異的に検出するプローブの開発を現在行っているところである。一方で、当初は次年度に予定していたヒト胚のライブセルイメージングに成功するといった予定を上回る結果をだしている。以上の進捗を総合的に検討すると、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、染色体動態の定量化パラメーターとして、染色体の異数性、染色体の断片化、染色体の大きさや長さ(凝集度)、およびそれらの時間変化、metaphaseやanaphaseの長さ、分配スピードなどについて単一胚ごとに数値化してゆく。また、そのための自動解析アルゴリズムの開発・改良を行う。その後、種々の摂動を与えた胚に関して同様の解析を行ってゆく。与える摂動としては、in vivoで起こり得る変化を想定したものが適切であると考えている。例えば、加齢モデルマウス(SAMマウス等)、顕微受精胚、人為的DNA損傷(チェックポイントに関する摂動)、培養条件の変更などを想定している。与えた摂動ごとに、どのパラメーターに影響が出たのかを数値として記述し、その平均値や分散により胚の不均一性を表現する。
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