コヒーシン複合体は姉妹染色体の接着や二重鎖切断修復、さらに減数分裂期組み換えなどに機能するが、その機能制御には、ESCO1/2アセチル基転移酵素によるアセチル化修飾がきわめて重要である。さらに、ヒストンなど多数の因子がDNAの複製や損傷に応答してアセチル化修飾を受ける。一方、アセチル化の検出とアセチル化部位の同定は容易でないため、技術開発によりこの分野の解析が大きく進展すると予想される。本研究では、ツメガエル卵無細胞系を利用し、アセチルCoAアナログを用いたアセチル化修飾の網羅的同定方法の開発と、それを用いたアセチル化因子の同定、解析を行った。 本年度は、昨年度までに確立した方法と二次元ゲル電気泳動法を組み合わせ、コヒーシンを中心にアセチル化基質の探索、解析を行った。コヒーシンサブユニットのうち、アセチル化されることが分かっているSmc3については、我々の方法でもアセチル化が検出された。一方、Smc1、Rad21など他のサブユニットのアセチル化は検出されなかった。Smc1やRad21のアセチル化は、DNA二重鎖切断があっても検出されなかった。このことは、コヒーシンのコア複合体のうちでは、Smc3が優先的にアセチル化を受けていることを示す。我々が以前に作成したツメガエルESCO2変異体では、Smc3の既知サイトのアセチル化は減少しないにもかかわらず、染色体接着に欠損を示す。従ってESCO2はSmc3の既知サイトに加え、Smc3もしくは他の因子の未知アセチル化を介して接着を促進するはずである。この変異体の存在下で、Smc3に導入されるアセチル化の総量の減少は観察できなかった。従って、ESCO2は、Smc3上の未同定サイトではなく、Smc3ではない基質をアセチル化して染色体接着を促進すると考えられる。この因子の同定は今後の課題である。
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