公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
脊椎動物は進化の過程で遺伝子とその発現を調節するシス配列 (エンハンサーやサイレンサー)が倍増する全ゲノム重複を2回経験した。これにより遺伝子回路が高度化し、私たちの発達した臓器や脳、それに起因する複雑な生理特性と行動がもたらされたと考えられている。近年、倍化以前の祖先種に近縁なナメクジウオや様々な脊椎動物の全ゲノム配列が解読され、それらを比べることで進化の過程でどのようにゲノムが変わったのかわかるようになってきた。しかしながら、脊椎動物の進化の鍵となる全ゲノム倍化が起きたとき、ゲノムに何がおきたのか、遺伝子の発現状態やそのシス調節配列がどのように働いたのかは全くわかっていない。この問題は、現存する動物のゲノム配列を比較するだけでは永遠に解決し得ず、ゲノム配列に進化の痕跡を求めるのではなく、倍化を人工的に再現し、進化の初期状態を観察する必要がある。本研究は、脊椎動物なかでも容易にゲノムを倍化させることができるネッタイツメガエルを用いて、倍化直後の遺伝子発現の動態とエピゲノム状態を解析することで、脊椎動物の進化の初期になにが起きたのか解明することを目的としている。本年度は、ゲノムを倍化させたツメガエル胚のなかでステージ35/36まで正常に発生した胚について、トランスクリプトーム解析を行った。ゲノムが倍化した直後にも関わらず正常に胚発生を続けるものは、2倍体と比べ遺伝子の発現が倍増することが予想された。しかしながら実際には、倍化体で発現が倍増したものは514遺伝子に留まり、減少がみられたものについても1,779遺伝子のみであった。さらに興味深いことに、それらの中で発生制御遺伝子は、ほとんどみられなかった。このことは、脊椎動物の全ゲノム倍化直後には、なんらかの発現抑制メカニズムが働いていることを示している。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、人工的にゲノムを倍化させたネッタイツメガエル胚のトランスクリプトーム解析を行うこと計画しており、その一部については解析を終え、おおむね順調に進展している。しかしながら研究室の移動と立ち上げに伴い、ナショナルバイオリソースから供与された少数の個体数から実験に必要な個体数を育てる必要があった。そのため解析に用いた検体数は十分とは言えず、今後さらなる解析が必要である。
平成26年度は、倍化直後のゲノムのエピジェネティック修飾状態を調べるために、倍化体をもちいてクロマチン免疫沈降シーケンスを行う予定である。平成25年度に研究を遂行する上で問題となったネッタイツメガエルの個体数については、順調に個体数を増やしており、また平成26年よりナショナルバイオリソース (ネッタイツメガエル)から、十分な個体数が可能となったため、本年度は概ね計画に沿って研究を遂行する予定である。
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