研究実績の概要 |
脊椎動物は進化の過程で遺伝子とその発現を調節するシス配列 (エンハンサーやサイレンサー)が倍増する全ゲノム重複を2回経験した。これにより遺伝子回路が高度化し、私たちの発達した臓器や脳、それに起因する複雑な生理特性と行動がもたらされたと考えられている。しかしながら、脊椎動物の進化の鍵となる全ゲノム倍化が起きたとき、ゲノムに何がおきたのか、遺伝子の発現状態やそのシス調節配列がどのように働いたのかは全くわかっていない。この問題は、現存する動物のゲノム配列を比較するだけでは永遠に解決し得ず、ゲノム配列に進化の痕跡を求めるのではなく、倍化を人工的に再現し、進化の初期状態を観察する必要がある。本研究は、脊椎動物なかでも容易にゲノムを倍化させることができるネッタイツメガエルを用いて、倍化直後の遺伝子発現の動態とエピゲノム状態を解析することで、脊椎動物の進化の初期になにが起きたのか解明することを目的としている。昨年度までに、2倍体胚と比べて、正常に発生した倍化体胚で1,779遺伝子の発現の減少がみられ、発現の亢進がみられたものは514遺伝子であった。これらの発現変動がみられた遺伝子のなかには、発生制御遺伝子は含まれていないことを明らかにしていた。今年度は、倍化体の個体サイズや核のサイズを測定した結果、2倍体胚と4倍体胚でほとんど変わらない事を明らかにした。これらの結果は、脊椎動物の全ゲノム倍化直後の胚で正常に発生する個体は、発生制御遺伝子の発現量のバランス調節や個体サイズの調整が起きていることを示唆するものである。
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