本研究の目的は、反復配列に由来するエンハンサーのクロマチン状態を解析することにより、どのようにエピジェネティックな制御を受けてエンハンサー機能を示すのかを明らかにすることである。平成25度に完了したAS021座位の解析に加え、平成26年度は哺乳類の吻部でエンハンサー活性を示す反復配列由来のAS3_9座位についてDNAメチル化状態の解析をおこなってきた。その結果、エンハンサー活性を示すE11.5胚の吻部においては10.8%と低いメチル化率を示し、一方で終脳、中脳、尾部組織において低メチル化は見られなかった。さらにAS021による転写調節ターゲットであるSatb2、およびAS3_9の調節対象であるWnt5aのプロモーター周辺領域に関して同様の解析を行った結果、マウスの発生ステージ・組織にかかわらず7%以下の低メチル化状態であることが明らかとなった。 一方、哺乳類で保存されていない反復配列領域についても同様の解析をおこなった。その際、マウスゲノム情報、反復配列アノテーションデータ、および哺乳類間の保存度スコアデータを利用して全反復配列について保存度の比較解析をおこない、保存度の低いものを解析ターゲットとして選択した。その結果、マウスのいずれの発生ステージ・組織においてもエンハンサー機能を示す反復配列のような低メチル化状態は観察されなかった。 以上のように、本研究で解析した反復配列由来のエンハンサーは、通常の反復配列とは大きく異なり、マウス発生過程における活性組織特異的に低メチル化されることが明らかとなった。これは一般のエンハンサーに極めて近いクロマチン修飾機構を持つことを意味している。一方でこれらエンハンサーの調節対象遺伝子は一貫して低メチル化状態であることから、その転写調節がエンハンサーに大きく依存している可能性が見出された。
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