研究領域 | ゲノムアダプテーションのシステム的理解 |
研究課題/領域番号 |
25125722
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
重信 秀治 基礎生物学研究所, 生物機能解析センター, 特任准教授 (30399555)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 表現型多型 / 単為生殖 / アブラムシ / 減数分裂 / 染色体 |
研究概要 |
生物は環境要因に応じて表現型を可塑的に変化させる「表現型可塑性」を持っている。表現型可塑性は生物の環境適応や形質進化を理解する上で重要な性質であり、研究の歴史も古いが、その遺伝学的あるいは分子発生学的基盤についての知見は少ない。本研究ではエンドウヒゲナガアブラムシの繁殖多型を材料に、性発現や発生様式を制御するゲノムアダプテーションの仕組みの解明を目指す。 アブラムシは春から秋にかけて胎生単為生殖によって繁殖するが、晩秋になると季節変化(短日化)に応答し有性生殖世代が出現する。アブラムシの性決定様式は雄ヘテロ XO 型であり、メス親は環境依存的に染色体分配様式を改変し、仔虫のX 染色体を選択的に失わせることでXO型のオスを産出する。先行研究より単為発生卵がオスになるかメスになるかは卵成熟過程のgermarium(胚腺)内で決定されると考えられている。そこで我々は胚腺のトランスクリプトーム解析から、オス・メスの産み分けの機構の解明を試みた。飼育条件を制御することにより、胎生メス(単為生殖メス)・卵生メス(有性生殖メス)・ オスのそれぞれのみを産出するアブラムシを誘導した。各カテゴリのアブラムシの卵巣を摘出し、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを用いて胚腺のみを正確に単離した。単離胚腺から得られるRNAは微量であるため、Ribo-SPIA法により増幅した後にRNA-seq解析を行った。その結果、染色体放出が生じるオス産出カテゴリでは他のカテゴリを比べた場合、約750~1650個の遺伝子が有意に発現変動していた。オス産出カテゴリで高発現している遺伝子群を詳しく解析したところ、複数あるヒストンのパラログやアブラムシ特異的な重複遺伝子の性特異的「使い分け」が見いだされた。これらの遺伝子重複がアブラムシの複雑な生活史進化の原動力となった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
germariumのトランスクリプトーム解析は技術的に挑戦的な手法であったが、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションと、Ribo-SPIA法によるcDNA増幅によって、RNA-seq解析を行う系を確立出来たのみならず、この手法を用いて、5実験区(3繰り返し)のサンプリングに成功した。データ解析も基本部分は完了し、2年目の機能解析に向けて十分な準備が調えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
大規模解析は今年度完了し、候補遺伝子のしぼりこみがある程度できている状況にある。したがって、in situ hybridizationと免疫染色により、mRNA・タンパク質の局在を調べる。また、RNAi等で機能解析を行なう。また、オスの捨てられるX染色体と卵核にとりこまれるX染色体の間に、異なる特徴(e.g. epigenetic mark) があるかどうかを調べる。 季節性繁殖多型の進化過程を推定するために、アブラムシ近縁種であるフィロキセラのゲノム・トランスクリプトーム解析も行なう。
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