本研究では、食欲・食物探索活動と食物摂取のタイミングを合わせ、限られた食餌機会を有効に利用するための第2の概日ペースメーカー「食餌同調性概日ペースメーカー」の神経基盤の解明を進めるとともに、食餌同調性概日ペースメーカーによる末梢臓器機能の調節様式を明らかにすることを目的した。 食餌同調性概日ペースメーカー存在部位の絞り込みでは、SCNを除いた視床下部で特異的にBmal1(概日分子時計に必須の因子)を欠損したマウスを作製し、その食餌同調性概日行動リズムを検討した。しかし、用いたCreドライバーマウス自体で食餌同調性の食物探索行動が顕著に減弱してしまい、視床下部特異的Bmal1欠損の影響を調べることができなかった。また、以前我々は、視床下部背内側核緻密部を食餌同調性概日ペースメーカーの座と提唱したが、当該領域に特異的にCreを発現するトランスジェニックマウスを見出した。 SCN以外の脳領域でBmal1を欠損したマウスでは給餌時刻に合わせた食物探索活動や摂食が著しく減少する。この「脳内食餌同調性概日ペースメーカーを特異的に欠損したモデルマウス」を用いて、諸臓器に内在する末梢概日時計を脳内食餌同調性概日ペースメーカーが調節する可能性について検討し、胃内在性概日時計の食餌への同調を促進することを明らかにした。しかしながらこのモデルマウスにおいて、グレリン血中濃度の食餌性同調性概日リズムについては異常が観察されなかった。脳内の食餌同調性概日ペースメーカーは餌探索活動や食欲などの脳機能を制御する一方で、末梢臓器機能の調節には大きな役割は果たさない可能性が考えられた。
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