研究領域 | ミクロからマクロへ階層を超える秩序形成のロジック |
研究課題/領域番号 |
25127701
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
芳賀 永 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 教授 (00292045)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 上皮管腔組織 / コラーゲンゲル / メカノセンシング / 集団運動 |
研究概要 |
本研究課題は,上皮細胞の集団が協調して力を出し合い,管腔組織を形成するロジックを明らかにすることを目的とする.申請者はこれまでに,上皮細胞(MDCK細胞)をコラーゲンゲルで重層すると,上皮シートの辺縁部が内側に収縮し,シート全体が湾曲しながら折り返されることで管腔構造が形成されることを発見した. 平成25年度では,研究実施計画に従って,シート辺縁部に位置する上皮細胞がEMTによって間様系細胞に転移し,折り返し運動を開始するという仮説のもとで実験を行った.MDCK細胞にコラーゲンゲルを重層し,Rac1,integrin-β1など細胞運動に寄与するタンパク質の阻害剤を投与したところ,折り返し運動の速度が有意に遅くなることが明らかとなった.また,TGF-β1を投与すると,折り返し運動が阻害されることが明らかとなった.これらの結果は,折り返し運動にとって,シート辺縁部の上皮細胞のみがEMTを示し,それ以外の上皮細胞は極性を維持したまま運動することが必須であることを示している.こららの結果をシミュレーションによって再現した. 次に,上皮シートが管腔を形成する際,個々の細胞がどのように形態を変化させながら運動するのかを調べるために,GFPを融合させたアクチンをMDCK細胞に発現させ,蛍光ライブイメージングを行った.その結果,ある一つの細胞がどちらかへ運動すると,その運動方向が隣接する細胞に漸次伝播し,最終的には多数の細胞が集団で折り返し運動をすることが明らかとなった.さらに,ZIP-kinaseの活性を阻害すると,折り返し運動が阻害されることが明らかとなった.これらの結果は,細胞間には何らかのセンサーが存在し,隣接細胞の移動方向を感知していることを示唆している.ZIP-kinaseという有力な手がかりが得られたので,次年度以降,ZIP-kinaseの働きを調べる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上皮シートが折り返し運動によって管腔組織を形成するロジックを細胞極性の維持と消失という観点から明らかにした.さらに,細胞運動の方向が隣接細胞に伝播することが必須であることも明らかにした.平成25度年では,これらの結果をもとに数理モデルの構築を行った.当初の計画を越えて,コンピューターシミュレーションを行うに至った.その結果,細胞極性を維持しながら隣接細胞に追随運動する様子を再現することに成功した.さらに,細胞を取り囲む基質の弾性率が低い,つまりコラーゲンゲルのような軟らかい基質でないと折り返し運動が起きないこともシミュレーションによって再現できた. 特筆すべきは,当初の予定よりも早くこれらの結果を原著論文として投稿することができたことである.編集部からはMinor Revisionという返事をもらっており,原稿のリバイスも終了し,現在は2回目の査読の段階である. 以上のことから,当初の計画以上に研究目的が達成されているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は上皮シートが湾曲し内向きの力が発生することで管腔が形成される機構の解明を行う.これまでの申請者の観察によって,上皮細胞にコラーゲンゲルを重層すると,上皮シートが下方に湾曲することが分かっている.また,上皮シートの外縁に収縮性のアクトミオシン束が取り囲み, 上皮シート全体に内向きの収縮力が発生することも明らかとなっている.さらに,上皮細胞にコラーゲンゲルを重層すると,細胞極性を維持するためにマトリックス分解酵素(とくにMMP-8)が分泌されて,重層されたコラーゲンゲルとの間に隙間を作るという事実も観察している.これらのことから,MMP-8の発現とアクトミオシン束の収縮力によって上皮シートが湾曲し,結果として,折り返し前後の細胞間に間隙が形成されるという仮説のもとで実験を行う. まず,上皮シートを取り囲むアクトミオシン束の収縮力発生機構について調べる.アクトミオシンを構成するII型ミオシンは重鎖と軽鎖から構成される.II型ミオシンの軽鎖(MRLC)には2つのリン酸化部位が存在し,1重リン酸化状態よりも2重リン酸化状態の方が大きな収縮力を発生させることが,申請者のこれまでの研究で明らかとなっている.そこで,MRLCの2重リン酸化機構に着目して実験を行う.具体的には,MRLCの2重リン酸化に寄与するリン酸化酵素について調べる.免疫蛍光染色,siRNAによる発現抑制,FRETプローブの強制発現による蛍光ライブイメージングを行うことで,上皮シートを取り囲むアクトミオシン束による収縮力と管腔形成との関係に迫る. さらに平成25年度で新たに見つかったターゲットであるZIP-kinaseについても実験を行う.また,MMP-8の発現と管腔形成との関係について調べる.siRNAによってMMP-8の発現を抑制する,もしくはMMP-8の阻害剤を投与し,管腔形成への影響を調べる.
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