研究概要 |
マイクロパターニング技術を利用してヒト骨肉腫U2OS細胞の形態を人為的に調節することにより、細胞接着斑の位置、およびその構成タンパク質のリン酸化修飾が特定の位置に局在化できることを確認した。細胞接着斑タンパク質のうち、FAK(pY397, 576, 925), cas(pY165, 410), paxillin(pY118)の3つのタンパク質に注目して、細胞内発生張力の抑制剤を与えたときのそれぞれのチロシンリン酸化の変化を免疫染色により調べた。ブレビスタチンを用いてミオシンによるATP加水分解のADP放出を抑制した結果、張力が減少し、リン酸化レベルに変化が見られた。特にpaxillinのpY118ではリン酸化レベルが上昇した。これはウエスタンブロットによる、細胞の平均的挙動を調べる実験においても同様の傾向が得られた。その他のリン酸化は概ね減少することが観察された。このように、通常細胞内においてランダムに起こるpaxillinなどのリン酸化が、本技術を用いて特定の位置で張力依存的に調節できることを実証した。さらに、マイクロ・ナノ混在パターニング技術を用いて細胞接着斑の極性と、その細胞自身の極性(長手方向の位置)を人為的に異なるように配置させると、コントロール(細胞接着斑と細胞の極性が一致する場合)と比べて、paxillinのpY118リン酸化が進むことがわかった。つまり、前記の実験結果から、極性を人為的に逆にすると同じ培養条件であっても張力が減少することがわかった。このように、パターニング技術によって張力依存的に細胞接着斑タンパク質の局在やリン酸化を調節できることは、生体内では細胞が置かれた力学環境に依存してこれらの分子機能を調節していることを示唆する。
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