多細胞生物のからだは、遺伝子(ゲノム)/代謝/細胞/組織/個体といった階層構造を持つ。生物の形づくりでは、個々の細胞はローカルな細胞外情報をもとに遺伝子・代謝ネットワークにしたがって自らのふるまい(増殖、分化、運動など)を制御し、細胞相互の作用によって組織、個体レベルで適切な大きさと形に形成される。したがって、生物の形づくりには細胞が相互に情報交換を行い細胞社会のレベルで大きさと形を感知するしくみと、その情報を細胞内の遺伝子・代謝ネットワークにフィードバックするしくみが必要である。本研究では、細胞の社会的ふるまいと階層を超えたフィードバック制御に着目し、組織・器官の大きさと形の決定ロジックの解明を試みた。 ゼブラフィッシュの左右軸の決定に関わるクッペル胞の形成をモデルとして用い、クッペル胞の大きさと形がその機能にどのように関わるか、また適切な大きさと形がどのように決められるかを解析した。 クッペル胞は20個程度のdorsal forerunner cells (DFC)が集合し、増殖することによって100個程度の細胞から構成されるクッペル胞に分化する。我々はDFCの一部をレーザー照射によって除去することにより、DFCの数を減少させ、機能的なクッペル胞形成に必要な最少の細胞数を決定した。また、DFCの増殖分化には自身が分泌するFGFが必須であるが、FGFシグナル強度を計測して、FGFシグナルが機能的なクッペル胞を形成するのに必要なDFCの数を規定していることを示唆するデータを得た。
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