研究領域 | ミクロからマクロへ階層を超える秩序形成のロジック |
研究課題/領域番号 |
25127712
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水野 大介 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30452741)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 生物物理 / 細胞力学 / フィードバック / 力学知覚 / 非平衡揺らぎ / 統計力学 |
研究概要 |
細胞内部に貪食させたコロイド粒子をプローブとしてactive/passive MR計測を行った。前年度までに準備した細胞計測用の計測システムを用いて、ガラスボトムディッシュ上で培養された細胞の観測を行うことができた。(従来は狭小な試料セル中に細胞を封入する必要があったために細胞の状態が短時間のうちに劣化する問題があった。)蛍光微粒子(粒径0.6μm)をプローブとして、他のオルガネラと区別して計測を行うことができた。また、細胞骨格やモータータンパク質、およびその他の構造タンパク質との特異的な結合を避けるために、コロイド粒子の表面はポリエチレングリコール鎖で修飾した。 代表者らのActive/PassiveMR計測システムでは、光トラップを用いて生体試料を非熱的に駆動しつつ、試料の非平衡度とその力学物性を同時に計測することができる。しかしながら現実には、生きている細胞中に存在する巨大な非平衡揺らぎのためにプローブ粒子がレーザースポットから逸脱してしまうために測定が困難であった。そこで本研究ではピエゾ駆動の試料ステージを3次元フィードバック制御してプローブ粒子位置をレーザースポット中に維持した。4分割フォトダイオードの出力とピエゾステージの制御電圧(フィードバック信号)から、コロイド粒子の運動を完全に復元することができた。ただし、当該計測系では、光トラップ力と試料中の熱的および非熱的な揺動力がフィードバック機構を介して互いに強く相関する。こうした特殊な力学系に揺動散逸定理とその破れに関する非平衡統計力学を拡張して適用するための統計理論を整備して、細胞の非平衡力学を解析した。得られた結果は現在投稿準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請段階における目標は、表記の通りほぼ達成した。途中、フィードバックが導入された力学系に対して揺動散逸定理の適用法を究明する必要があったが、これもクリアできた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究経過は順調であるために、今後も概ね当初の研究計画に従って遂行することを目指す。平成26年度からは、3次元培養された細胞集団に対して開発した計測手法を適用することになる。当初の研究計画では、神経細胞様の細胞株の軸索が伸張する過程における細胞間および細胞―周囲環境間の力学的な相互作用を解明することを一例として挙げていた。しかしながら本新学術領域グループにおける研究交流から、上皮細胞様細胞株MDCKが形成する細胞集団構造(cyst)や癌細胞(前立腺癌細胞株PC3)が形成するcancer spheloid等がより本研究の目標にてらして、合目的的であることが分かった。これらcystやcancer spheloidは周囲環境を力学的に押しのけて成長するが、有る程度成長したところで片や成長を停止し、片や周囲環境に浸潤してゆく。その際の細胞集団としての周囲環境との力学知覚応答が、組織としての働き・機能にも密接に関連しており、開発した手法の最初の適用系として、さらなる成果が期待できる。
|