研究領域 | ミクロからマクロへ階層を超える秩序形成のロジック |
研究課題/領域番号 |
25127715
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀田 耕司 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (80407147)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 尾芽伸長 / 尾芽胚 / ファイロティピック / ホヤ / 国際情報交換 オーストリア / 脊索動物 / 形態進化 / 器官形成期 |
研究概要 |
これまでの本領域での研究から、以下の結果を得た。1)尾芽の伸長にはWntパスウェイとFGFパスウェイのクロストークが関わっているといった報告がゼブラフィッシュ胚においてなされていることから、ホヤにおいてもこのことが当てはまるかどうかを阻害剤を用いた実験により確かめた。その結果、wntパスウェイの活性化は短尾を引き起こすが、FGFによりレスキュー可能であることから両方のパスウェイが尾芽伸長に関わっていることがわかった。2)ホヤの尾芽を構成する組織の一つである尾部神経管が尾部伸長に伴ってどのような細胞のダイナミクスを示すかを明らかにするために、ホヤ神経管形成過程の4Dイメージングを行った。ホヤの神経管は神経管閉鎖過程が比較的短時間であり少数の細胞から構成されるため、神経管閉鎖過程を観察するために適したモデルである。神経管閉鎖過程における全神経細胞の核をラベルし3次元で時系列画像撮影(4D)を行った。得られた画像の核を計算機上で追跡し、細胞系譜を明らかにすることができた。本計測により、ホヤ神経管形成における細胞分裂方向を含むさまざまな細胞の振るまいを明らかにすることができた(未発表)。3)ラマン散乱スペクトルを発生期におけるカタユウレイボヤに適用しその応用可能性について検討した。カタユウレイボヤから得られたラマン散乱スペクトル解析により、胚内において局所的なパターンを作るラマンスペクトルをいくつか得ることができた。この内、分化した筋肉と内胚葉に特異的なラマンスペクトルである1002と1526を同定することができた。本研究成果からモルフォゲンの1つであるレチノイン酸のような可視化が難しい物質の非ラベルイメージングの可能性を示すことができた(Nakamura et al., 2013, PlosOne)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は①尾芽伸長における細胞の物理量の定量および②細胞マニュピレーション・ノックダウンによる物理量変化の検出を研究実施計画に掲げた。①に関しては神経管形成時の細胞系譜および細胞分裂方向の計測に成功している。②に関しては尾芽先端部破壊実験や阻害剤によるノックダウンを通じ、尾部伸長および湾曲における種々の変異胚の単離に成功した。さらにこれらの成果に加え、ラマン顕微鏡を活用することによりモルフォゲン等の可視化が難しい生体内小分子の可視化の可能性を示すことができた。以上、当初の計画に加えて付加的な研究成果も得られていることから研究は概ね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞破壊および移植実験: 尾芽伸長には異なる組織間の相互作用が必要であることがわかっているが、ホヤ胚においては64細胞期の内胚葉をレーザーで取り去った胚においても表皮・筋肉・脊索・神経だけで正常の尾部と同様な細胞配置で伸長がみられることがわかっている(Munro et al., 2002)。また、ホヤの初期発生では隣り合う細胞1個分の誘導が重要であり、オーガナイザーからのモルフォゲン勾配による形態形成が行われるといった証拠はない。ホヤ尾部先端に高発現Wnt細胞を欠失あるいは異所的に移植し、ホヤ尾芽伸長におけるモルフォゲン勾配の有無を検証する。細胞破壊はマニュピレーションまたはレーザーアブレーションによって行う。 カタユウレイボヤの未受精卵を切り分けた後に受精させると野生型個体よりも小さい、Dwarf幼生を作成することができる。Dwarf幼生は正常に変態し幼若体になることができた。興味深いことに、野生型尾芽胚は常に腹側に湾曲するのに対して、Dwarf幼生の尾部は背側に湾曲していた。来年度はこの尾部湾曲がどのような物理学的な力によって制御されているかについての実験も行う。 上記カタユウレイボヤで得られた分子・物理メカニズムが他の脊索動物においても当てはまるかどうかを実験的に検証する。得られた遺伝子と物理量との関係全体を、時系列の観点・空間的な配置との関係から再解析することで、尾芽伸長過程における保存されたメカニズムを見出す。そして最終的に脊索動物に保存された尾芽伸長のモデルを構築する。
|