脊索動物の尾が伸びる仕組みを細胞レベルから個体レベルへ階層を超えて明らかにしたい。さらに、カタユウレイボヤの尾部は卵殻を除去して後も腹側に湾曲する事が知られている。しかしながら、尾部が腹側に湾曲する分子・物理的・力学的なメカニズムはいまだに解明されていない。そこで尾部伸長過程が比較的短時間で観察可能であり尾部を構成する脊索・表皮・神経管などの組織が少数の細胞から構成されるホヤをモデル生物として用いた一連の実験を行うこととした。まず、FGFやwntパスウェイ関連遺伝子の阻害、細胞レベルでのホヤ尾芽伸長過程の4Dイメージングを行った。次に、尾部が腹側に湾曲する分子・物理的・力学的なメカニズムを知るため、レーザーカッターによる特定組織の切除実験を行った。ホヤにおいても、wntパスウェイの活性化やFGF阻害は短尾を引き起こすこと、また、wntパスウェイの活性化による短尾はFGFによりレスキュー可能であることから両方のパスウェイが尾芽伸長に関わっていることが示唆された。興味深いことに短尾の表現型は脊索の収斂伸長(CE)が異常であるものと脊索のCEは正常だが表皮の配列が異常であるものに分けられた。尾部側表皮細胞は最終的に8列の筒のように尾部をとりまく形となり、その過程で脊索細胞と同様にCEを行うこと、そして側方表皮細胞は後期尾芽胚期には50個が1列に並ぶことが観察された。腹側表皮細胞をアブレーションした時に尾の移動がみられたことから、腹側表皮の収縮力が尾の腹側への湾曲の力を発生させていることが示唆された。また、Y27632処理した胚ではこのような差がみられなかったことから、ホヤ幼生尾部の腹側への湾曲はミオシンの収縮力が関わっている可能性が示唆された。
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