研究領域 | 複合適応形質進化の遺伝子基盤解明 |
研究課題/領域番号 |
25128703
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
二階堂 雅人 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (70432010)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 平行進化 / QTLマッピング / シクリッド / 唇 / エラスチン |
研究概要 |
「平行進化」とは、系統的に異なるグループの生物が、似た生息環境に適応するためにそれぞれ独立に似通った形態形質を獲得することであり、形態進化のメカニズムを考える上でとても重要な現象である。本研究では東アフリカ三大湖産シクリッドにおいて観察される「唇の肥大化」という平行進化現象に着目し、その分子メカニズムを明らかにするのが目的である。2013年度においてはビクトリア湖産シクリッドHaplochromis chilotes(唇厚)とH. sauvagei(唇薄)、の雑種F2系統(309個体)を用いた唇の肥大化に関わるQTL解析の結果、連鎖群22においてLOD値が10を超える領域が検出され、このマーカー近傍にはMAGP4遺伝子群が存在することが明らかとなった。マイクロアレイを用いた先行研究ではH. chilotesの顎部におけるMAGP4遺伝子発現が、他種と比較して有意に低い事が示されており、H. chilotes におけるMAGP4遺伝子のcis領域への変異がMAGP4遺伝子発現低下につながり、最終的に唇の肥厚をもたらした可能性が示唆された。MAGP4はエラスチンの重合に関与し、その欠損はヒト遺伝病(Smith-Magenis syndrome)を引き起こすことが知られているが、そのSMSの特徴の1つが唇の肥厚であることも興味深い。さらに、エラスチン遺伝子の欠損(Williams syndrome)によっても唇の肥厚が起こる事から、エラスチンの重合阻害と唇の肥厚が密接な関係にあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
唇の厚さに関するQTLマッピングは予想以上の成功をおさめ、先行研究において注目していた遺伝子の近傍が、その候補領域であることが分かった。一般に、野生種が環境適応によって獲得した量的形質の責任遺伝領域の絞込みは非常に難しいと考えられているが、今回は表現型と遺伝子型の対応がしっかりとつけられる可能性が大きい。また、ヒト遺伝病との関連も深く示唆するなど、予想以上の成果も期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
今回のQTLマッピングでは、MAGP4遺伝子のcis領域への変異がMAGP4遺伝子発現低下につながった事が示唆されているがそれを実験的に示すのは現状では難しい。そのため、今回は視点を変え、MAGP4遺伝子の発現量を指標としたQTL解析(eQTL mapping)を実施し、その解析によってもこれまでと同じ領域が候補となるかどうかを検証したい。また、Haplochromis chilotes, H. sauvagei, Lithochromis rufusの3種について各10個体ずつ全ゲノムDNA配列を決定し、MAGP4遺伝子の周辺配列についてリファレンス配列にマッピングすることで、H. chilotesに特異的に固定している変異を探索する。以上の研究を進めることで唇の肥大化をもたらした変異を特定できると考えている。最終的には、ビクトリア湖以外の湖において唇の肥大化したシクリッドについてもこのゲノム領域を調べ、唇の肥大化がH. chilotesと同じ変異によるものか否かを検証する。
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