研究概要 |
動物には,極めて高度な社会性を獲得したグループが存在する。その代表例である社会性昆虫がもつゲノム(=ソシオゲノム)には,複数の表現型(カースト)の設計図が織り込まれており,個体としての表現型が協調して「コロニーという総体」を作り上げる設計図をも織り込まれている点が特筆に値する。特にシロアリでは,各カーストの役割や形態が特殊化しているため,コロニーから各カーストを切り離して維持することは不可能である。したがって進化の過程では,各カーストを特徴づける形質と,協調や分業をもたらす複数の因子がほぼ同時に獲得されたと考えられる。本研究は,カースト分化を規定する未知の因子群を明らかにすることを目指し,兵隊・ワーカー・生殖カーストへの分化前の個体の特定に成功したヤマトシロアリReticulitermes speratusに注目する。本年度はまず,網羅的なトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を行うためのライブラリーを作製した。各カーストの分化誘導過程において,ガットパージ(昆虫の脱皮前に生じる腸内容物の放出)を指標として,(1) 分化前,(2) ガットパージ直前,(3) ガットパージ中,(4) 分化後,の各個体を10頭ずつ回収した。異なるコロニーに由来するトリプリケートを用意し,頭部と胸腹部に分けた計72ライブラリーの作製が完了した。さらに,新学術領域研究「ゲノム支援」のサポートを受けて,本種の新規ゲノム解読にも着手した。ペアエンドライブラリー(250と800bp)およびメイトペアライブラリー(3k, 5k, 8k, 10k)の作製とシーケンスが完了し,順調に解析が進行している。
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