動物の体表に見られる多彩な模様パターンは、同種識別、交配選択、擬態・隠蔽等、適応的にも大きな意義をもつと考えられる形質である。個々の模様パターンは多数の因子が相互作用する複雑なシステムによって形成されると考えられるが、進化的・適応的に重要なパターンの違いをもたらす因子や分子ネットワーク、その進化プロセスについては未解明の部分が多く、特に脊椎動物に見られるような複雑、かつ個体ごとに配置が柔軟に変化する模様パターン(=「やわらか模様」)に関してはほとんど明らかになっていない。本研究課題では、模様パターンのバリエーションがどのように創発するか、その分子メカニズムと進化プロセスを明らかにすることを目的として、比較ゲノム解析と数理モデル解析の両面からアプローチを行った。本年度は昨年度に引き続き、模様パターンが劇的に異なるトラフグ属近縁種を対象として、以下の項目について研究を進めた。1) トラフグ属近縁種生体サンプルの収集。2) トラフグ属近縁種間交雑系統の作出。3) トラフグ属近縁種の皮膚組織明色部・暗色部を対象としたRNA-seqによるトランスクリプトーム解析。4) トラフグ属魚種の系統関係の再検討とデモグラフィー推定、およびゲノムワイド変異比較解析。これらの成果として、近縁種間での模様パターンの劇的な違いに関与する可能性があるゲノム領域および候補遺伝子を見出し、模様パターンのバリエーションを生み出すメカニズムとその進化プロセスに関して新しい知見をもたらすに至った。
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