公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
陸上植物の多くは地下組織において菌根菌と相利共生を営む能力を進化の初期段階で獲得した。一方、一部の植物は菌根共生との共進化により菌類との関係を共生から寄生へと転換してきた。この様な菌従属栄養性を獲得した植物は、菌根菌からの炭素化合物に完全に依存する無葉緑植物へと更に進化する。本研究では、菌従属栄養植物を含む分類群の植物種を中心に新規にゲノムレベルでの解析を行うことで、これまで全く情報が無い菌従属栄養性とその獲得、及び無葉緑化を制御する遺伝子基盤の解明を目的とした。A)野生植物種の菌従属栄養性の獲得と無葉緑化に関わる遺伝子の同定:ツツジ科植物のRNA-seqによるトランスクリプトーム解析:菌従属栄養性無葉緑植物ギンリョウソウについて地上部の様々な組織を用い、リード数を劇的に増やしたことで、信頼性の非常に高い遺伝子モデルを構築できた。データ解析により、菌従属栄養性の無葉緑植物では光合成系だけでなく、炭酸固定系や酸化的リン酸化などの代謝系、ブラシノステロイドの生合成系とシグナル伝達等に関わる複数の遺伝子がそれぞれ発現していないという新たな知見を見いだした。また、ツツジ科の色素体ゲノム配列についてはヤマツツジ、ウラシマツツジに関しては全色素体ゲノムの80%程度の配列を同定し、構造は同じツツジ科のクランベリーと類似していることを明らかにした。B)ラン科植物の菌従属栄養性に関わる遺伝子の同定:ラン科植物の菌根共生の特徴である共生器官における菌糸コイルについて、形成と分解・吸収をプロトコームにおいてそれぞれ誘導可能な人工発芽実験系を構築した。本実験系を用いてRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行い、菌根共生時に発現が強く誘導される遺伝子を同定した結果、菌糸コイルの分解・吸収に関与すると考えられる分解酵素群をコードする遺伝子を多数同定した。
3: やや遅れている
A)野生植物種の菌従属栄養性の獲得と無葉緑化に関わる遺伝子の同定:ツツジ科植物についてはギンリョウソウとの比較解析に用いるドウダンツツジとイチヤクソウのトランスクリプトーム解析結果が、サンプル処理のミスで十分得られていない。また、ツツジ科植物の色素体ゲノム配列の決定も、予定していた植物種全てについて配列を同定できていない。これらについては色素体DNAの純度が低く、配列の完全決定まで至っていない。ラン科植物については、希少種をサンプリングの対象に設定したため、今年度自生地で十分量のサンプルが得られなかった。本研究では野生植物を研究対象にしているため、サンプリング時期が限られる問題、及び野生種からの核酸の調製が困難な場合があるといった理由から、今年度は予定通り研究が進まない部分があった。これらの問題はほぼ解決できると考えられるため、平成26年度は予定した全ての研究を遂行できると考えられる。B)ラン科植物の菌従属栄養性に関わる遺伝子の同定:シランの種子が研究に十分ではない状態から研究をスタートしたため、成果が出だしたのが本年度種子を収穫できた秋以降になった。本問題は既に解決済みなので、平成26年度は予定した全ての研究を遂行できると考えられる。
A)野生植物種の菌従属栄養性の獲得と無葉緑化に関わる遺伝子の同定:ギンリョウソウの解析結果は論文として報告する。また、ツツジ科の残りの植物も含めて発現データをしっかり得ることで、進化の観点から菌従属栄養性の獲得と無葉緑化に関する遺伝子群の同定を行う。解析を予定していた野生の無葉緑ランとその近縁種はサンプリングが困難であるため、植物種を変えて対応する。ツツジ科の色素体ゲノムについては使用するシーケンサーを変更することで、10種程度の配列を完全に同定したい。B)ラン科植物の菌従属栄養性に関わる遺伝子の同定:菌糸コイルの形成と分解・吸収に注目した発現遺伝子の網羅的同定を行うことで、未知のラン科植物における菌根共生系の全体像を明らかにする。また、アグロバクテリウム法を用いたシランの遺伝子組換え技術の開発も継続して行う。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
Cell Stress and Chaperones
巻: 18 ページ: 517-525
10.1007/s12192-012-0398-3
Phytopathology
巻: 103 ページ: 733-740
10.1094/PHYTO-08-12-0201-R
Molecular Plant-Microbe Interactions
巻: 26 ページ: 868-879
10.1094/MPMI-10-12-0253-R
Carbohydrate Polymymers
巻: 98 ページ: 1198-1202
10.1016/j.carbpol.2013.07.033