公募研究
本研究の目的は、ウミウシの盗葉緑体現象を通して、遺伝子の水平伝播と複合適応形質の進化の関連を議論することです。盗葉緑体現象とは、嚢舌目ウミウシなどが、餌海藻の葉緑体を細胞内に取り込み、数ヶ月間光合成能を保持し栄養を得る現象のことです。これには、藻類核からウミウシ核への遺伝子の水平伝播が伴うと考えられており、遺伝子の水平伝播によって光合成という複合適応形質が生物界を超えて水平伝播することを示唆しています。本研究では、本現象の進化的途中段階を示す嚢舌目3種について、ゲノム解読を行い比較解析により遺伝子の水平伝播の進化的過程を明らかにします。更に、パルス変調蛍光定量法を用いて、水平伝播した各遺伝子が実際に光合成能の各段階において関与していることを明らかにします。平成25年度までに、チドリミドリガイのゲノム解読およびRNAseqを行い、十分なショートリードデータセットとドラフトゲノムデータ(N50=1Mbp)を得ました。またパルス変調蛍光定量法により、チドリミドリガイが細胞中で葉緑体の翻訳活性を保持しており、さらにこれによって光合成活性を回復させることを明らかにしました。チドリミドリガイ中の葉緑体DNAの完全長を解読したところ翻訳に必要な遺伝子の大半をコードしていなかったことから、葉緑体DNA上の遺伝子翻訳だけでは翻訳活性自体は保持できないことがわかりました。今後、葉緑体の翻訳保持機構の研究が盗葉緑体現象の分子機構解明に重要と考えられます。このほかに、ゲノム比較用のウミウシ2種について、適切な種の選定を終え、コノハミドリガイ(Elysiaornata)とミドリアマモウミウシ(Placidadendritica)を採集し、シーケンシングを行っています
2: おおむね順調に進展している
ゲノム解読は順調に進んでおり、当初予定よりも高品質のデータを獲得することに成功している。パルス変調蛍光定量法からは、ウミウシ中の葉緑体で光合成関連タンパク質の活性回復がおきているという、今まで想定されていなかった新しい結果を得ることに成功している。本研究では生物個体の採集の可否が重要であるが、すでに研究対象としている3種のウミウシについて採集を完了しており、懸念事項を克服することに成功している
平成26年度は、1)ゲノム解読の推進、2)藻類のRNAseqによる相同性検索精度向上 3)プロテオーム解析による水 平伝播タンパク質の局在解析を行い、盗葉緑体現象の分子機構とその進化をあきらかにします。 1)ゲノム解読の推進 チドリミドリガイと比較用ウミウシ2種のゲノム解析をすすめ、より精度の高いゲノムデータを獲得し遺伝子水 平伝播の有無を確認し、盗葉緑体現象の進化課程を明らかにします。 2)藻類のRNAseqによる相同性検索精度向上 ウミウシに葉緑体を提供する藻類(ハネモ、サボテングサ)のRNAseqによりそれらの遺伝子情報ライブラリを獲 得し,ウミウシゲノムに水平伝播した遺伝子の検出能力を向上させます。平成25年度のドラフトデータによる水平伝 播の検出には、すでにゲノムが解読されている藻類種(例:クラミドモナス)のデータをつかいましたが、ウミ ウシが使う藻類とは遠縁であり十分な精度がない可能性がありました。 3)ウミウシ単離葉緑体のプロテオーム解析 プロテオーム解析により水平伝播した遺伝子に由来するタンパク質が実際にウミウシの葉緑体中に輸送されてい るか確認します。チドリミドリガイの細胞中で翻訳による光合成活性の回復が起きたことを受けて、盗葉緑体中 での翻訳タンパク質の由来を解明するために、ウミウシから単離した葉緑体をつかって、質量分析計によるプロ テオーム解析を行います。
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