進化ダイナミクスは、システムの安定性に起因する拘束条件や、時間的に変動する環境条件に依存し、その適応度地形上の表現型変化は複雑な軌跡を描く。その軌跡が持つ性質を解析することは、進化ダイナミクスの理解のための重要な意味を持つ。そこで本研究では、大腸菌の進化実験を用いて、その進化ダイナミクスにおける表現型・遺伝子型の変化を解析し、そこで見られる表現型変化の軌跡が持つ性質を抽出した。 これまでの研究として、抗生物質を添加した環境下での進化実験により、様々な抗生物質に対して耐性を持つ大腸菌株の取得を行ってきた。これら耐性株について、トランスクリプトーム解析とゲノム変異解析を行い、さらには一つの薬剤に対する耐性獲得が、他の薬剤に対する耐性・感受性をどのように変化させるかを定量している。このデータを統合することにより、薬剤耐性獲得のメカニズムの解析を行った。例えば、適切な線形モデルを用いることによって、小数の遺伝子発現データから耐性・感受性の予測が可能であることを示した。この解析は、どのようは遺伝子発現量の変化が耐性獲得に寄与するかを定量的に評価することを可能とし、それに基づいて複数の薬剤耐性能がどのように関係するかを明らかにした。 また、系統的な進化実験を可能とする、ラボオートメーションによる全自動の進化実験システムを構築した。そのシステムを用いて、酸・アルカリなど11ストレス環境下でそれぞれ10独立系列の進化実験を1000時間程度行い、それぞれの環境に耐性を持つ大腸菌を取得した。これらのストレス耐性株についてトランスクリプトーム解析とゲノム変異解析を行い、ストレス耐性に寄与すると考えられるゲノム変異や遺伝子発現量変化の抽出に成功した。
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