公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
ターゲットメチロームシークエンシング(TMS)解析は、液相ハイブリダイゼーション(LH)法により特定のゲノム領域を濃縮し、得られたDNA断片をショットガンバイサルファイトシークエンシングに供してDNAメチル化状態を決定する手法である。この方法は、ゲノムサイズが比較的大きい生物において、配列決定のためのコストを抑制しながら高精度なメチロームデータを収集ことが可能であるが、これまでに報告されているTMSの鋳型調製法は大量の開始DNAが必要で実用的ではなかった。そこで、本研究ではこれまで研究代表者らが開発してきたPost-bisulfite adaptor tagging(PBAT)法をTMSの鋳型調製に応用することで、TMSの高感度化を試みた。まず、標準的なPBAT法のプロトコールをLHにより回収されたDNAに適用したが、この系は再現性に乏しく改善の余地があった。そこで、PBAT法におけるランダムプライミング反応の高効率化と実験の再現性向上に取り組んだ。その結果、従来のPBAT法で用いていた3′末端に4塩基の完全縮重塩基が付加されたプライマーに比べて、数塩基のATのみの縮重塩基が追加されたプライマーを用いると、TMSの鋳型収量と実験の再現性が高まることが判明した。この新しい鋳型調製技術は国内5機関に移転されている。5-ヒドロキシメチル化シトシンの検出には、アルコール特異的な酸化剤である過ルテニウム酸カリウムを用いる酸化的バイサルファイトシークエンシング法が有効である。しかし過ルテニウム酸カリウムの反応効率は最適化を経ても高々50%程度であり、繰り返し条件検討を重ねたものの改善が見込めなかった。そこで、ADADO類を用いたアルコールの酸化反応の導入を検討し、条件検討を行った。その結果、過よう素酸を再酸化剤として用いる条件が5-hmCの酸化反応には適していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、TMS解析のプロトコールの確立、安定化と技術移転を第1の目標に、TMSで確立された技術の5-hmC検出解析への応用を第2の目標に定めて計画を進めてきた。第1の目標に関しては今年度中にほぼ達成できており、また第2の目標に関しても酸化的バイサルファイトシークエンシング法に有望な酸化剤の組み合わせを見出している。この試薬を用いた反応系の最適化も数か月内に完了する見込みである。
PBAT法の鋳型調製効率の改善とそのTMS解析の応用に関しては、その技術を現在論文へとまとめる作業を行っており、近日投稿予定である。5-ヒドロキシメチルシトシンの検出に関しては、過よう素酸を用いた反応系のさらなる最適化を進める。これまでの結果からは、5M以上の高濃度酢酸ナトリウム緩衝液の存在下でAZADO類による酸化反応が促進されることが明らかになっている。そこで、酢酸ナトリウム存在条件下での温度、AZADO類、pH等に関する条件検討を行い、反応の最適化を進める。また、より実用的な酸化反応を考えた場合、DNAの変性状態の維持も重要なポイントである。過ルテニウム酸カリウムやAZADO類による5-ヒドロキシメチル化シトシンの酸化にはDNAが1本鎖状態で維持されていることが要求される。アルカリ条件下で行う過ルテニウム酸カリウムとは異なり、過よう素酸を用いるAZADO類による触媒反応では弱酸性条件が求められるため、DNAのかい離状態を維持するためには尿素をはじめとしたDNAの変性剤を反応系に共存させる必要があるものと考えており、これらの検討も進める。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) 備考 (2件)
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http://itolab.med.kyushu-u.ac.jp/cgi-bin/DesktopTracks/agilent/Browser
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