公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
GPI(Glycosylphosphatidylinositol)アンカーは、150種以上の蛋白質の膜結合に用いられている。GPIが欠損するとこれらの蛋白質が細胞表面に発現できないので完全欠損は胎生致死となる。27個の遺伝子が、GPIアンカー型蛋白質の生合成や、修飾に必要であることが明らかになっている。我々は海外との共同研究によりてんかん、精神発達遅滞、高アルカリホスファターゼ(ALP)血症等を呈する先天性GPI欠損症、PIGM, PIGV, PIGO欠損症を世界に先駆けて報告した。25年度は国内で上記症状を伴う患者ゲノムについてGPI生合成に係わる遺伝子27個の配列を解析し、日本で初めてのGPI欠損症,PIGO欠損症(Neurology 2013)と新規のPIGW欠損症(JMG 2013)を発見した。また拠点班との連携で全国から収集された乳児早期に発症するてんかん性脳症の患者約150例のexome解析結果から5家系6名の先天性GPI欠損症を抽出した。国内症例の解析経験により以下のことが明らかになった。① 多くの患者の末梢血顆粒球でGPIアンカー型タンパク質CD16の発現低下がみられる。即ち末梢血のフローサイトメトリー解析がスクリーニングに有効である。② 高ALP血症を伴う精神発達障害の多くが先天性GPI欠損症である。③ 重症例ではMRI拡散強調画像で脳幹部のhigh signalが特徴的である。④ 痙攣発作にビタミンB6が有効な症例がある。また海外との共同研究により、新規のGPI欠損症であるPGAP2欠損症、PGAP1欠損症、PGAP3欠損症を報告した。このうち後2者はGPIアンカーの構造が異常なまま発現することにより知能低下やてんかん等の症状が生じ、完全欠損の場合も致死にならないことがわかった。現在モデルマウスの解析中で今後知能低下やてんかんの発症機序を明らかにしたい。
1: 当初の計画以上に進展している
当初国内症例が見つかっていなかったが、我々が多くの小児神経専門医に呼びかけて患者サンプルを集めて、既知のGPI関連遺伝子の解析を行った結果、日本で初めての先天性GPI欠損症であるPIGO欠損症が見つかった。GPIアンカー型タンパク質であるアルカリフォスファターゼの発現低下により、細胞外のピリドキサルリン酸を脱リン酸化出来ないために神経細胞内に取り込めず細胞内のピリドキサルリン酸が不足する結果、それを補酵素とするGABA合成が低下してけいれんが起こると考えられる。これを根拠にこの症例にピリドキシンを投与したところ難治性の痙攣発作が完全に消失した。このように適確な診断が治療に繋がったことは、多くの小児神経専門医の協力を得るきっかけとなり、世界で第1例であるPIGW欠損症の国内症例がWest症候群の患者から見つかった。厚労省の難病班で動いていた乳児早期てんかん性脳症のエクソーム解析においても代表者と連絡を取り、共同で解析した結果約150例のexome解析結果から5家系6名の先天性GPI欠損症を抽出した。これら国内症例の詳細な臨床症状を解析することにより、共通の疾患マーカーとなる検査所見が明らかになっている。国内外との共同研究により今までに15種類の遺伝子変異による先天性GPI欠損症(IGD)を見つけており、今年度は7報の論文をメジャーな雑誌に発表することができた。また発症機序の解明については、モデルマウスを作成し神経症状等のフェノタイプが見えているので現在解析中である。
今までの患者の解析により先天性GPI欠損症は精神発達障害やてんかん、時に高アルカリホスファターゼ(ALP)血症を来すが重症例では脳の形成異常、聴覚障害等の神経症状、顔貌異常、四肢、心臓、腎・尿路系の奇形、ヒルシュスプルング氏病等の腸管異常、魚鱗癬等非常に広範な症状を示すことが判ってきた。Mabry syndromeやCHIME syndromeといわれている患者の中に先天性GPI欠損症が見つかっていることからも判るように、原因不明の疾患の原因がGPI関連遺伝子の異常によるものである可能性がある。現在も次々と先天性GPI欠損症の患者が見つかっており、国内症例の詳細な臨床データにより共通の疾患マーカーとなる検査所見も明らかになって来ている。これらを1疾患として疾患概念を確立して疾患ホームページを作り国際的な診断基準を作成する予定である。また血液のフローサイトメトリーにおいてGPIアンカー型タンパク質の低下が認められるにもかかわらず、既知のGPI関連遺伝子に異常がみられない先天性GPI欠損症の患者がいることが判っている。全エクソーム解析により、さらに原因遺伝子が広がる可能性があるので、今後も診断基準に該当する患者の解析を進めて行きたいと考えている。また患者の神経症状は生後も進行性で早期治療により症状の軽減が期待されるので、症状の原因となるタンパク質を同定し、補充療法等の治療法の開発を目指している。実際アルカリホスファターゼの発現低下に起因する痙攣発作がピリドキシンの投与により消失した症例がある。種々の症状の発症機序を解明するためモデルマウスを作成したので、そのフェノタイプの解析を進める予定であり、この成果を治療法の開発に繋げたいと考えている。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
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