公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
癌幹細胞の抗がん剤耐性の特徴として、M-CSFなど炎症因子産生を介した腫瘍マクロファージの分化、活性を誘導すること、この腫瘍マクロファージは癌幹細胞以外の腫瘍細胞群にも作用することで、非癌幹細胞集団にも抗がん剤耐性を誘発する特性があることが明らかとなった。この抗がん剤耐性癌幹細胞に比較的特異的に発現している遺伝子を網羅的に検討したところ、Interferon-regulatory factor-5 (IRF-5)発現・活性が、抗がん剤感受性を有する癌幹細胞に比べて高いことが判明した。このIRF-5特異的な干渉RNAを抗がん剤耐性癌幹細胞に導入することで、癌幹細胞を介したマクロファージ浸潤、活性および抗がん剤耐性の誘導は著名に抑制された。さらに、IRF-5ノックダウン癌幹細胞は、コントロールと比較して腫瘍増殖を抑制すること、さらにシスプラチンをはじめとした抗がん剤への感受性の亢進が認められた。以上より、癌幹細胞集団のなかでも、特に抗がん剤耐性に特化したサブセットが存在すること、このサブセットは高炎症シグナル活性という特性を背景に、腫瘍活性能に優れたマクロファージの腫瘍内浸潤や分化を促進する機能があることを明らかとした。今後は、IRF5の他に、癌幹細胞に特異性があり、かつ腫瘍内マクロファージなどミエロイド細胞分化誘導を引き起こす膜性、分泌性因子の同定を遂行し、癌幹細胞による免疫ニッチ制御を標的とした新たな創薬につなげたい。
2: おおむね順調に進展している
腫瘍マクロファージと正常(脾臓)マクロファージを対象とした腫瘍特異的な発がん活性因子として、いくつかの有望な候補因子を選別することができた。さらにそのいくつかについて、既に発現ベクターや干渉RNAを作成し、癌幹細胞特性 (Sphere形成能、幹細胞マーカー発現)について検証を終了しており、そのうち2因子が腫瘍マクロファージに比較的高発現し、かつ癌幹細胞の誘導に重要な機能を有していることが判明した。以上より、申請計画に記載している前年度の研究計画案である「腫瘍内ミエロイド細胞より特異的に産生される癌幹細胞活性因子の同定を目的とした網羅的解析」および「腫瘍内ミエロイド由来因子による癌幹細胞の生物学的特性への影響の検証」はほぼ予定通り達成されており、おおむね順調に計画を推進していると考えられる。
1.ミエロイド細胞由来因子が発がん活性や抗腫瘍剤の治療効果に及ぼす影響を詳細に検証するため、骨髄キメラマウスをベースとしたin vivo modelを対象として、マウス癌幹細胞の皮下摂取、あるいは転移モデルでの腫瘍形成、転移活性に与える影響を検証する。また、癌幹細胞活性因子欠損キメラマウスを対象に、抗がん剤による腫瘍抑制効果に及ぼす影響も検証する。またex vivoでの自己複製能、細胞死誘導能、血管新生能の検証を行う。さらに、癌幹細胞活性因子による腫瘍免疫応答の修飾能を検証するために、キメラマウスより得られた腫瘍浸潤リンパ球を対象とした抗腫瘍免疫応答を検討する。2.癌幹細胞活性細胞因子を特異的に標的化する抗体、阻害剤を用い、その治療効果をマウスモデルで明らかにする。具体的には、in vivoでの腫瘍縮退効果の検証、および抗がん剤併用による相乗効果の有無につき検討する。さらに癌幹細胞の自己複製、抗がん剤抵抗性、EMTの変化を検証する3.腫瘍内ミエロイド細胞リガンドを介した分子経路が、抗がん療法を受けた担癌患者の治療応答性や予後を反映していることを検証するため、標準化学療法、分子標的治療投与を受ける前後でのヒト腫瘍組織および血清サンプルを対象とする。癌幹細胞活性因子や、それにより癌幹細胞で活性化する遺伝子群を対象に RT-PCRにて定量化する。各々の結果を、治療前後および治療経過中に抗癌剤不応性を呈した時期で区分化して、癌幹細胞活性因子の発現および関連シグナル活性と再発、治療不応性、生存率との相関性について統計的に検証する。以上の検証よりヒト癌の抗癌剤応答性や予後において、ミエロイド細胞による発がん制御機構が果たす臨床的意義を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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