研究領域 | 癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築 |
研究課題/領域番号 |
25130707
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
下野 洋平 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90594630)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 乳がん / マイクロRNA / 細胞表面タンパク質 |
研究概要 |
本年度は、ヒト乳がん異種移植マウスの作成、樹立されたマウスの肺転移巣の検索、さらにヒト乳がん幹細胞に特徴的な細胞表面タンパク質の検索とそれらの発現制御へのマイクロRNAの関与の検討を行うため以下の研究を計画し実施した。 (1) ヒト乳がん異種移植マウスの作成:ヒト乳がん異種移植マウスを作成するため、同意の得られた乳がん患者の手術検体を収集し、それらをマウスの乳腺領域に移植した。現在までに90症例以上の手術検体を移植し、そのうち計8例がマウスの乳腺領域へ生着した。ヒト乳がんにみられる代表的な組織型を含むこれらの腫瘍の中で継代可能な6例については腫瘍組織の保存、継代、セルソーターによる解析を行った。(2) ヒト乳がん異種移植マウスの肺転移巣のがん細胞の分離と細胞周期制御機構の解析:ヒト乳がん異種移植マウスの肺より転移がん細胞をセルソーターにて分離し、その細胞表面タンパク質の発現を単細胞PCR法にて解析することにより、転移がん細胞を特徴づける細胞表面タンパク質を同定した。また、細胞表面タンパク質の阻害物質を用いて、マウスモデルにより腫瘍増殖抑制効果を確認した。(3) がん幹細胞を培養する培養系の開発:がん幹細胞を効果的に培養する三次元培養系について検討し、ヒト手術検体由来のニッチ細胞との協調によりその増殖を効率化できることを見出した。(4) がん幹細胞に特徴的に発現するマイクロRNAによる細胞表面タンパク質の発現制御機構の解析:がん幹細胞に特徴的に発現がみられるマイクロRNAが、糖鎖修飾酵素を標的としてその発現を低下させることで細胞表面タンパク質の発現を抑制することを解明した。また、miR-214がAPCを標的としてWntシグナル活性を上昇させるとともに、乳腺細胞の増殖を誘導するmiR-150の発現を誘導し、がん幹細胞の幹細胞性の維持に関わることを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同意の得られた乳がん患者の手術検体を積極的に集めることにより、ヒトの乳がんを代表するさまざまな組織型からなる一連のヒト乳がん異種移植マウスを樹立した。また、がん幹細胞の細胞周期制御に関わる細胞表面タンパク質や、肺転移がん幹細胞で発現が上昇する細胞表面タンパク質を同定した。また、ヒト乳がん異種移植マウスの原発巣および転移巣にあるがん細胞の多くが、ヒト乳がん手術検体と同様に、細胞周期の停止した状態にあることを示した。さらに、乳がん組織由来のがん細胞の三次元培養を可能にするニッチ細胞に関する研究が進展した。特にmiR-142とそれにより発現が誘導されるmiR-150が、Wntシグナル系の活性化を通じてヒト乳がん幹細胞および正常乳腺幹細胞の増殖を刺激することが明らかになった。一方、乳がん手術検体のマウスへの生着率の低さや、生着した腫瘍の増殖の遅さは研究を迅速に進める上では障害になっている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト乳がん幹細胞を特徴づける細胞表面タンパク質の機能解析をさらに推進するため、今後は以下の三点について研究を進める。 (1)ヒト乳がん異種移植マウスの肺転移巣より分離したがん細胞の細胞表面タンパク質およびマイクロRNAの発現解析をさらに進める。(2)ヒト手術検体由来のニッチ細胞を用いた乳がん細胞の三次元培養系を確立し、細胞表面タンパク質の刺激および阻害による効果をより効率的に判定できる系を樹立する。(3)細胞表面タンパク質に対する阻害分子およびその発現を制御するマイクロRNAがヒト乳がん腫瘍細胞の増殖および転移におよぼす影響を、ヒト乳がん異種移植マウスモデルを用いて検討する。
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