研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
25131702
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
増本 博司 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (80423151)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA損傷修復 / エネルギー代謝 / 代謝調節 / タンパクの翻訳後修飾 |
研究概要 |
本研究では代謝中間産物がDNA損傷修復に適したクロマチン構造の形成およびそれに関連する細胞の寿命に影響するメカニズムの解明を行なう。サーテュイン(NAD+依存性デアセチラーゼ)欠損 (hst3 hst4 sir2)および糖新生経路の遮断(tdh2もしくはfbp1遺伝子欠損)によって増加した代謝産物にはDNA損傷修復を促進する機能を持つものがある。 今年度の研究によって下記の研究成果を得られた。 1. tdh2欠損によって細胞内で増加するキヌレニン経路の代謝中間産物キノリン酸はサーテュイン欠損が原因であるクロマチン構造異常を介したDNA損傷修復異常およびその異常による細胞の短寿命を回復させた。 2. サーテュイン欠損+糖新生経路の遮断を起こしたhst3 hst4 sir2 fbp1欠損株は解糖系代謝産物の蓄積、発酵経路の亢進といった異常な解糖系の亢進を引き起こした。hst3 hst4 sir2 fbp1欠損株は解糖系の亢進および二次代謝経路ペントースリン酸経路の活性化を引き起こすが、この表現系は癌細胞でみられるWarburg効果と称される解糖系の亢進と表現系が似ている。さらにhst3 hst4 sir2 fbp1欠損株は重篤なDNA損傷修復欠損を示すサーテュイン欠損株(hst3 hst4 sir2)と比較するとDNA損傷剤への抵抗性を示す。hst3 hst4 sir2 fbp1欠損株ではペントースリン酸経路代謝産物でありDNA複製の基質であるデオキシヌクレオチドの蓄積が起こる。これはデオキシヌクレオチドが大量に供給されることで、サーテュイン欠損 (hst3 hst4 sir2)によるDNA損傷修復障害が回復するためではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではDNA損傷修復を促進するクロマチン構造形成と細胞寿命維持に寄与する代謝産物としてキノリン酸を同定した。遺伝学的解析は終了しているもののキノリン酸がクロマチン構造を再生させるためにどのような機能を果たしているのか生化学的解析は進んでいない。キノリン酸はサーテュインsir2欠損の短寿命を野生株レベルにまで回復させる。sir2欠損株でおこるクロマチン中のヒストンH4の16番目リジンのアセチル化の残存が細胞の短寿命の原因であるが、キノリン酸の添加がSir2の代わりに他の脱アセチル化酵素を活性化しヒストンH4の16番目のリジンの脱アセチル化を行なわせると考えた。しかし実際にキノリン酸存在下で脱アセチル化酵素の活性が上昇し、ヒストンH4の16番目のリジンの脱アセチル化が起こるかどうか確認できず、研究の方向性を変更する必要が生じた。 サーテュイン欠損および糖新生経路の遮断の組み合せによって解糖系の異常亢進が起こる。しかしながらなぜ解糖系の亢進が起こるのか、特にサーテュイン欠損によって代謝系の異常が起こるそのメカニズムが明らかになっていない。サーテュインの脱アセチル化の標的となるタンパクを同定し、その脱アセチル化制御異常によって代謝系の異常が起こることを明らかにする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
キノリン酸によるサーテュイン欠損株の短寿命を回復できる機構を明らかにする:キノリン酸の添加によってsir2欠損細胞の短寿命の原因である過剰なヒストンのアセチル化がどのように影響されるのか調べる。仮にキノリン酸の添加によってヒストンアセチル化レベルが下がるのであれば、キノリン酸添加によってヒストンの脱アセチル化活性を向上した脱アセチル化酵素もしくはそのアセチル化活性が低下したヒストンアセチル化酵素を同定する。キノリン酸が酵素活性に与えるメカニズムも明らかにする。 サーテュインの脱アセチル化標的タンパクを同定する:細胞内のたんぱく量を網羅的に同定および定量できるLC-MALDI systemを導入することを計画している。サーテュイン欠損ではアセチル化された標的タンパクが残存していることが推測されるが、アセチル化タンパクおよびその修飾部位をLC-MALDI systemおよび安定同位体を使ったタンパク標識法SILACを用いて同定する。
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