公募研究
真核生物では、転写シグナルは転写因子とメディエーター複合体に伝わり、クロマチンと転写を協調的に制御して、RNAポリメラーゼII (Pol II)による転写開始や、転写伸長への移行をもたらす。研究代表者らは、メディエーター複合体の2サブユニットCDK8とCDK19がPol IIによる転写開始に重要なCTDリン酸化を行い、活性化と抑制の両段階の制御の要になることを明らかにした。そしてCDKの相互作用タンパク質を検索した結果、クロマチン構造変換関連因子(BRG1、SUZ12、BCL6、PRMT5)を同定した。これらはCDKと直接結合し、アルギニンメチル化酵素PRMT5は、メディエーター複合体精製分画が示すヒストンメチル化活性を担っていることを実証している。以上の結果は、メディエーターを介する転写とクロマチン構造の協調的制御の存在を示唆している。そこで本研究は協調的制御を実証し、その機構を解明することを目的とした。最近さらに、メディエーターは細胞分化の際に分化に関わるマスター転写因子、コヒーシンと協調して分化状態を制御する際に重要な役割を果すことが、バイオインフォマティクス研究から明らかにされている。そこで今年度は、レチノイン酸(RA)処理により神経細胞へ分化する細胞株Ntera2 cl.D1(NT2/D1)を用いて、細胞分化に伴いメディエーター複合体とSuz12を含むクロマチン制御複合体PRC2がRA応答遺伝子上でいかに結合するか、短期(2時間)と長期(48時間)RA処理して分化初期段階と分化を終えた細胞で解析した。Cyp26a1とLefty1を短期応答遺伝子、NanogとPax6を長期応答遺伝子として用いた。その結果、メディエーターのCDKが神経分化を制御すること、その際メディエーターCDKとクロマチン修飾複合体PRC2がこれら遺伝子上に共局在することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、メディエーター複合体のCDKサブユニットによる転写とクロマチン構造変換の協調的制御の観察ができた。特に、CDK8とCDK19というメディエーター複合体を構成しているサブユニットに直接結合することを研究代表者らが見いだしていたSuz12が、PRC2複合体を形成して、メディエーター複合体と共にRA刺激により神経細胞に分化する幹細胞様Ntera2 cl.D1(NT2/D1)の神経細胞への分化の際に共に遺伝子の転写開始領域に結合して、協調的にこの分化を制御しているらしいことを示す結果を得ることができたため、このように判断した。
これまでに30サブユニットという巨大な複合体を形成するメディエーター複合体のキナーゼ活性サブユニットが、CDK8とCDK19の2種類存在し、各々が相互排他的にメディエーターを形成し、場合によっては同じ転写機能を、また違う局面では正反対の転写機能を発揮することを示している。ところが、これまでに同定してきたCDKに相互作用するタンパク質因子(BRG1、SUZ12、BCL6、PRMT5)は、いずれもCDK8とCDK19の両方に、両者でアミノ酸配列が殆ど同じであるN末端側のキナーゼ領域に結合することが明らかになった。この結果は、CDK8とCDK19の各々の形成するメディエーター複合体が同じ機能を果たす理由の説明にはなるが、正反対の機能を果たす際の機構は説明できない。そこで、今後は、CDK8とCDK19でこれら因子が結合しても異なる機能を示しうるのか、それともさらに別の因子が各々のCDKに別々に結合することにより転写活性化と抑制の異なる機能を果たすようになるのかを明らかにしていく。また、今回明らかにしたPRC2複合体がどのようにしてメディエーター複合体と共に転写とクロマチン構造変換制御を行うのか、またその結果どのようにして細胞分化に結びつくのかは、全く明らかになっていない。そこでこれらの詳細な機構の解明を行っていくことにする。
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Jouranl of Biological Chemistry
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