公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
酸化ストレスにより引き起こるDNA損傷とHDAC阻害剤による抑制をつかさどる分子メカニズムを解明するために平成25年度は下記の2点に焦点を当て、研究を遂行した。1.酸化ストレスによるゲノムDNA損傷応答酸化ストレスによって誘導されるゲノムDNA二重鎖切断に始まる一連のDNA損傷応答(DDR)が、HDAC阻害剤により阻害され、その下流で引き起こる細胞死も完全に抑制することを明らかにした。さらに、HDAC阻害剤が抗酸化剤として機能して、DDRを介した細胞死を抑制することも予想できたために、入念にその可能性について検討し、HDAC阻害は抗酸化剤としてではなく、核内で起こるDDRそのものを抑えていることを突き止めた。これらのことから酸化ストレスによる細胞死シグナルの発動には核内でおこるDDRそのものが原因であることを示した。2.メタボローム解析ストレスを受けた細胞の代謝産物の量は劇的に変化し、その変化を網羅的に解析することにより細胞内でどのようなことが起きているかをある程度予想することが可能となる。質量分析計を用いた解析の結果、酸化ストレス処理では多くの細胞内代謝物の変化が認められ、特に核酸のプール量や一部のアミノ酸のレベルの低下が著明であった。一方、HDAC阻害剤存在下では、これらの変化は、一旦は観察されるものの徐々に回復し、細胞に対し決定的なダメージが入らずに細胞を救済できることが明らかとなった。さらに、HDAC阻害剤によるDDRを介した細胞死の抑制は培地中のグルコースやピルビン酸に依存していることも突き止め、DDRや細胞死とのクロストークは不明であるが、間接的に細胞内の代謝状態がHDAC阻害剤による酸化ストレス誘導性細胞死の抑制に関与していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
酸化ストレス細胞死のシグナル伝達系やHDAC阻害剤の作用点を明らかにする準備として、核内のゲノムDNA損傷応答に焦点を絞ることができ、その分子メカニズムを探る上でその検索範囲を狭めることができた。また、代謝物の解析結果により、細胞内の状態をより詳細に知ることができ、今後の実験をどのように推進するか決定する上で良き判断材料を得られ、今後の研究に役立つと考えられた。
平成25年度に明らかにできたことも基に、さらに、その分子メカニズムを明らかにするために次の3つの方策に絞り、解析を進める。1.代謝フラックス解析 : 前年度の解析により、酸化ストレスを受けた細胞は、解糖が抑制され、細胞内のdNTPや多くのアミノ酸のプール量が低下し、一方、HDAC阻害剤存在下では、速やかに代謝が回復することを確認している。酸化ストレスの代謝抑制の作用点とHDAC阻害剤による代謝回復過程を可視化するために安定同位体(13C)を含むグルコースを用い代謝フラックス解析を実施する。2.酸化的DNA損傷 : HDAC阻害剤により、DNAの二重差切断が抑制されていることを確認している。8-ヒドロキシ-dGを検出、もしくは、その損傷応答過程にHDAC阻害剤がどのように機能するか解析することにより、酸化的DNA損傷とHDAC阻害剤との関係について明らかにする。3.出芽酵母(S. cerevisiae)を使用したHDAC阻害剤非感受性変異体のスクリーニング : 酵母においても、HDAC阻害剤が、ヒストンをはじめとするHDACターゲット分子の高アセチル化を誘導し、DNA損傷応答やストレス刺激による増殖抑制を緩和することが知られている。酵母の系において、HDAC阻害剤の効果を再現できる系を構築し、HDAC阻害剤非感受性変異体をスクリーニングし、HDAC阻害剤の下流で機能する遺伝子の同定を目指す。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
Am. J. Pathol.
巻: 183 ページ: 1936-1944
10.1016/j.ajpath.2013.08.012.