公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
DNAのメチル化は転写の抑制的制御を介して、細胞の正常な発生・分化に不可欠な役割を果たしている。また、がん細胞では異常なDNAメチル化パターンが高頻度で観察されることも報告されており、DNAメチル化パターンを正確に維持する分子機構の解明は、重要な課題といえる。申請者は、DNAメチル化維持の分子機構を明らかにするために、試験管内DNA複製系であるアフリカツメガエル卵抽出液由来の無細胞系を用いて解析を行い、ヒストンH3のユビキチン化がDNAメチル化酵素のメチル化部位へのリクルートに必要であるという知見を得た (Nature, 2013)。本研究においては、ヒストンH3をDNAメチル化完了後に脱ユビキチン化する分子機構の解明を試みた。まず、Dnmt1の結合タンパク質を質量分析で解析し、脱ユビキチン化酵素であるUsp7を同定した。Usp7はDNA複製依存的に一過的にクロマチンに結合し、その結合にはUhrf1及びDnmt1を必要とする。これはUsp7がDNAメチル化部位で特異的に機能していることを示唆している。次に卵抽出液あるいは哺乳細胞から、それぞれ免疫除去及びshRNAによるノックダウンによりUsp7を除去し、その影響を調べた。その結果、Usp7の除去に伴い、ヒストンH3のユビキチン化が亢進し、Dnmt1が過剰にメチル化部位に供給されることが明らかになった。また、Usp7はin vitroでヒストンH3を脱ユビキチン化する活性を持つことが示された。以上の結果は、Usp7はDnmt1と結合してDNAメチル化部位へリクルートされ、ヒストンH3を脱ユビキチン化することで、DNAメチル化完了後のDnmt1のクロマチンからの解離を制御するという可能性を強く示唆するものである。
1: 当初の計画以上に進展している
H25年度の研究により、当初の目的であるヒストンH3の脱ユビキチン化酵素Usp7の同定に成功するだけでなく、さUsp7のDNA複製に伴うクロマチン結合に関する詳細な分子機構、またその役割についても明らかにすることができた。これまで、Usp7はDnmt1やUhrf1を脱ユビキチン化する活性があることが報告されていたが、今回得られた結果は、新たな分子機構を提案するに十分なものと考えられる。
予備的な解析により、Usp7の発現抑制により、Dnmt1発現抑制に伴うヒストンH3のユビキチン化に加えて、細胞死が促進されるという結果を得ている。この結果から、Dnmt1除去に伴う細胞死がH3ユビキチン化を介して誘導されるという仮説を立てている。今後は、上記の仮説の検証に加えて、Dnmt1除去時の細胞死のメカニズムの詳細な解析を行う。一方で、Uhrf1によるPCNAのユビキチン化(未発表)については、未だその分子機構、役割などが明らかとされていない。従来の研究により明らかにされたPCNAユビキチン化に関わるとされる因子、例えばRad18、損傷乗り越えポリメラーゼなどに注目して、解析を進めたいと考えている。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Nature
巻: 502 (7470) ページ: 249-253
10.1038/nature12488