研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
25131721
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
田中 誠司 国立遺伝学研究所, 細胞遺伝研究系, 助教 (50263314)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA複製 / クロマチン / サイレンシング / DNAメタボリズム |
研究概要 |
過不足ない正確なDNA複製とDNAダメージの修復は、細胞がそのゲノムを安定に維持・継承する機構の中心にあり、その制御機構の破綻はがんなどのゲノム疾患の直接の原因となる。複製と修復は、チェックポイント機能によって連携されていることが広く知られているが、タンパク因子によるシグナル伝達の大枠は理解されたものの、染色体クロマチン構造との関連については不明な点が多い。真核生物において染色体DNA複製の開始は、多数の複製起点の活性制御を含む、多様で複雑かつ柔軟性を持ったイベントである。この過程には、クロマチンの構造変化が密接に関係していると予想され、実際、染色体のエピジェネティックな状態が複製開始に影響を及ぼすことが多数の研究で示されてきた。しかしながら、多数の複製起点の活性をコーディネートする仕組みやその分子基盤、その生物学的意義等、詳細は不明なままである。25年度までの解析で、複製開始において律速となっている因子の高発現が多くの複製起点の活性化を早めるのみならず、エピジェネティックに不活化(サイレンシング)されている染色体領域にある、通常活性化しない複製起点の活性化をも誘導することを見出した。このことは、高発現させた複製因子が染色体のエピジェネティックな状態に影響を与えうることを示しており、実際、同条件下でこの領域のサイレンシングと複製因子の高発現が拮抗することがわかった。また、ヒストンアセチル化酵素として知られるもののいくつかのサブユニットがこれらの複製因子と特異的に相互作用すること、その変異は上記サイレンシングの解除に影響を与えることがわかった。これらの結果は、DNA複製開始機構が染色体のエピジェネティックな状態に影響を与えることを示しているという新たな発見であり、DNAメタボリズム経路とクロマチンの関係を理解する上で非常に興味深いものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度までに以下のようないくつかの興味深い現象を見出している。 1. 複製開始因子 Sld3-Sld7-Cdc45 とHAT タンパク群との網羅的な相互作用解析より、いくつかのHATが Sld3 あるいは Sld7 と特異的に相互作用すること、 2. それらの因子のいくつかの欠失変異が、サイレンシングと拮抗する Sld3-Sld7-Cdc45 の高発現の効果に影響を及ぼすこと、 3. 同欠失変異は、Sld3 の高温感受性変異と遺伝的相互作用を示すこと、 4. Sld3-Sld7-Cdc45 の高発現が局所的なクロマチン構造に影響を及ぼしていること。 これらの結果は、複製開始因子とクロマチン構造変換の間に何らかの関係があることを示しており、さらなる解析を続けてゆくことで新たな発見や理解につながる可能性が強い。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通り、遺伝学的・生化学的・細胞生物学的手法を駆使して解析を進め、複製開始因子・反応とクロマチン構造変換の関係を明らかにする。これまでに候補として上がってきているHATのいくつかのうちにはDNA修復への関与が示唆されているものもあるので、複製ークロマチンの関係を理解した上で、DNA修復との関係性について知見が得られるような解析も試みる。
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