卵巣では、転写因子FOXL2とエストロゲン受容体が働いて卵巣体細胞(顆粒膜細胞)の雌性を維持している。また、顆粒膜細胞の発達・機能制御には卵母細胞の分泌する増殖因子群(卵由来シグナル)とエストロゲン受容体シグナルが重要である。本研究では、卵巣顆粒膜細胞の雌性維持機構の解明を目指し、卵由来シグナルとエストロゲン受容体シグナルによるFOXL2発現制御の可能性を検討した。さらに、卵・エストロゲン両シグナルの制御による卵巣体細胞の精巣体細胞への分化転換の可能性についても検討した。研究成果概要は以下の通りである。 顆粒膜細胞でのFOXL2のタンパク質発現は、卵由来シグナルとエストロゲンによって維持されていることを明らかとした。これは、FOXL2の発現制御に卵由来シグナルは関与しないとされてきたこれまでの通説を覆す結果である。 培養下でFOXL2の発現を低下させた顆粒膜細胞では、Foxl2欠損マウスの卵巣にみられるようなオス化(雌性マーカー遺伝子であるSox9の発現上昇)は見られなかった。興味深いことに、この培養に卵胞液を添加することで、SOX9タンパク質の顕著な発現上昇が誘導され、これは卵由来シグナルとエストロゲンによって抑制された。すなわち、卵巣雌性は、卵由来シグナルとエストロゲンによって維持されていることが示唆される。また、この結果は、生殖巣体細胞の性は人工的に遺伝子の改変を行わなくても転換できる可能性を示唆している。
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