研究領域 | 先端技術を駆使したHLA多型・進化・疾病に関する統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
25133707
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
河野 健司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90215187)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ医療 / 薬物送達システム |
研究概要 |
これまでの研究において、pH応答性ポリグリシドール誘導体修飾リポソームが細胞内のエンドソームと融合して内包する化学物質をサイトゾル内部に導入することを明らかにしている。そこで、このpH応答性リポソームのペプチドワクチンキャリアとしての機能について評価した。オボアルブミン(OVA)およびその由来ペプチドであるOVA-I(MHC class I結合性)、およびOVA-II(MHC class II結合性)を封入したpH応答性ポリマー修飾リポソームを作製し、その免疫誘導機能について検討した。E.G7-OVA腫瘍をもつマウスに、これらの抗原封入リポソームを皮下投与し、その腫瘍成長を追跡した。その結果、OVA-Iペプチドを封入したリポソームは、OVA封入リポソームと同様の腫瘍縮退効果を示したのに対して、OVA-IIペプチド封入リポソームはほとんど腫瘍成長抑制を示さなかった。また、新しいタイプのpH応答性リポソームとして、オリゴエチレングラフト鎖をもつメタクリル酸共重合体修飾リポソームの開発を行った。この共重合体で修飾したリポソームは、低温においては中性~弱酸性において安定に化学物質を内包したが、体温以上においては、弱酸性環境での内包物の放出が促進された。温度応答性をもつオリゴエチレングリコール鎖とメタクリル酸ユニットのカルボキシル基の作用によって、体温以上、弱酸性条件下においてリポソームが不安定化されたものと考えられる。水溶性蛍光色素カルセインを内封した共重合体修飾リポソームを細胞に取り込ませ、共焦点レーザー顕微鏡によって観察したところ、エンドソーム内部で効率よく内包物を放出することがわかった。このリポソームは、エンドソーム内部で内包する化学物質を効果的に放出するキャリアとして利用できると考えられた。さらに、カルボキシル基を導入した多糖誘導体修飾リポソームの作製も検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトでは、免疫担当細胞のエンドソームあるいはサイトゾルに精密に化学物質を送達するキャリアの開発とその医療展開を目的とする。本年度は、エンドソームの酸性環境で膜融合するpH応答性ポリマー修飾リポソームのワクチンキャリアとしての有用性について検討した。その結果、MHC Class I結合性ペプチドおよびClass II結合性ペプチドのいずれも、リポソーム化することで、その免疫誘導機能を高められることを明らかにした。特に、MHC Class I結合性ペプチドを内包したpH応答性ポリマー修飾リポソームの投与によって、担癌マウスの腫瘍体積は顕著に縮退し、効果的ながん特異的細胞性免疫が誘導されることが示された。これは、このリポソームが細胞に取り込まれてエンドソームと膜融合することでペプチドワクチンがサイトゾルに導入され、これがClass I分子に提示されてCTLが活性化され、OVAを表面に発現した腫瘍細胞を攻撃したことを示す。これらの結果は、このリポソームを用いることでペプチドワクチンの効力を高めることができることを示している。 本年度は、さらに新しいタイプの機能性リポソームであるpH・温度デュアル応答型リポソームの開発に成功した。このリポソームは、生体適合性に優れるオリゴエチレングリコール鎖を多数持つメタクリル酸共重合体を用いているため、生体内への適用に有利な構造を有している。このデュアル応答型リポソームは、低温においては弱酸性環境で内包物を放出しないが、体温では、弱酸性環境で内包物の放出を引き起こす。従って、細胞に取り込まれると、弱酸性のエンドソーム内において不安定化してエンドソーム内に内包物を放出した。このリポソームはHLA関連化学物質を標的細胞のエンドソームに送達するキャリアとして利用できる。生体内での利用に適した多糖修飾リポソームの開発も評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、サイトゾルデリバリー型リポソームを用いて、そのワクチンでキャリアとしての有用性を明らかにすることに成功した。このタイプのリポソームは、内包物をMHC class I分子上に提示させることができるので、細胞性免疫の誘導に適している。一方、ヘルパーT細胞を介して、液性免疫や細胞性免疫を誘導、活性化するためには、エンドソーム内で確実に内包物を放出するキャリアの利用が必要である。この様なキャリアとして、本年度開発したオリゴエチレングリコール鎖をもったメタクリル酸共重合体修飾リポソームが利用できる。次年度は、このリポソームを中心にエンドソーム放出型リポソームのワクチンキャリアとしての機能と有用性を明らかにしていきたい。また、本年度新たに開発した多糖誘導体修飾リポソームの細胞内デリバリーシステムとしての機能とそのがん免疫治療、がん化学治療への適用の可能性を明らかにしたい。
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