本研究は、数理生物学の分枝過程モデルと、集団遺伝学の合祖理論を融合し、がん細胞増殖と、癌ゲノム進化との相関を記述する、がん進行シミュレーション手法を開発することを目的としていた。この手法を用いて、がんゲノムデータから、過去のがん進行の歴史を推定し、未来方向へがんの進行予測を行うシステムを開発することも目指していた。 対象となるデータは、主に1細胞シーケンシングによる、がん集団ゲノムデータであった。このようなデータに関しては、与えられたデータから、個々のがんの増殖率や塩基変異率などを推定するアルゴリズムを開発することに成功した。しかしながら、手法を適用すべき、がんゲノムの一細胞シーケンシングデータが現在でもほとんど公開されておらず、論文にするのが難しい状況である。このため、細胞系図に基づく、集団遺伝パラメータ推定の代わりに、がん組織シーケンシングデータからゲノム変異頻度を抽出し、その遺伝揺動を集団遺伝学の標準モデルである、ライト・フィッシャーモデルを用いて記述し、集団パラメータを推定する方法の開発を行っている。これを用いれば、より簡単に手に入るがん組織のシーケンシングデータから集団遺伝パラメータが推定できるようになるはずである。また、現在は1細胞シーケンシングによるRNA-seq実験が増えてきているため、がんの塩基変異をRNA-seqデータから検出すれば、初年度に開発した一細胞シーケンシングデータに特化したアルゴリズムも使えるようになると考えられる。
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