研究領域 | システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発 |
研究課題/領域番号 |
25134706
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 毅 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50567592)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / システム生物 / 代謝 |
研究概要 |
癌の増殖と転移には腫瘍微小環境が重要な役割を果たす。我々は、低酸素・低栄養という腫瘍微小環境が癌の悪性化と治療抵抗性に関与することを報告してきた。本研究は、腫瘍微小環境をシステムとしてとらえ、エピゲノム、トランスクリプトームおよびメタボロームという各階層のネットワークを統合する新しい数理ネットワークモデルを構築し、このシステム的統合解析によって得られた癌微小環境適応経路の重要性を分子生物学的手法で検証し、癌の悪性化や治療抵抗性などを起こす腫瘍微小環境のシステム的統合理解に基づく治療法の開発を目的とする。平成25年度は以下の研究成果を得て一部は論文発表を行った。 (1)低酸素・低栄養における転写調節機構の解明:我々は低酸素・低栄養に曝されたヒト癌細胞株においてトランスクリプトームとパスウェイ解析を行い、HIF1aとは異なるRORXとSREBXの二つの転写因子およびエピゲノム修飾因子JMJD1Aが低酸素・低栄養において重要であることを見いだした。 (2)低酸素・低栄養の腫瘍微小環境下において解糖系(Glycolysis)とは別の代謝経路の代謝物の蓄積が癌細胞で起こることを見いだしているが、メタボローム解析から得られた代謝物の相対量データをもとにしてシミュレーションをもとに解糖系以外の新しい代謝経路が働いていることを見いだした。 本研究により低酸素・低栄養など動的な腫瘍微小環境システムの鍵となるエピゲノム、転写、代謝の統合的なパスウェイから新しい癌の制御法の開発と、現存する化学療法や血管新生阻害療法との併用において相乗効果が期待できる治療標的の探索など治療への応用のための基盤となる研究を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)腫瘍微小環境における転写調節機構の解明 我々はヒストン脱メチル化酵素(JMJD1A)が低酸素・低栄養で発現誘導され腫瘍増殖を制御することを見いだし論文に報告した。さらに低酸素・低栄養下の癌細胞の遺伝子発現解析から発現制御因子を予測しHIF1aとは異なるRORXとSREBXの二つの転写因子を見いだしている。これらの転写因子が腫瘍微小環境に応じてヒストン修飾などのエピゲノムな発現制御の関与を統合解析を用いて解析中である。 (2)腫瘍微小環境におけるヒストン修飾、転写制御と代謝の統合的システムの開発 H3K4me3やH3K27me3のヒストン修飾は遺伝子発現と相関があることが既に知られている。これらのプロファイルおよびエンハンサーやヌクレオソームフリーな領域(H3K27me1、Faire-Seq)の解析を行い癌細胞が低酸素・低栄養に陥った際に重要な転写因子候補の抽出を連携研究のもと効率的に行っている。また、我々は低酸素・低栄養において解糖系(Glycolysis)に依存しない代謝経路と代謝物の亢進を様々な癌細胞に共通して起こることを発見している。このように低酸素・低栄養の腫瘍微小環境における転写制御機構とヒストンプロファイル、トランスクリプトーム、及びメタボロームの統合解析を行っている。これにより癌細胞の代謝異常におけるヒストン修飾及び転写制御の果たす役割について新たな治療標的や知見を得ることを目標とする。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね順調に研究が進んでいることから、平成26年度は引き続き、 (1)腫瘍微小環境におけるヒストン修飾、転写制御と代謝の統合的システムの解析を行い低酸素や低栄養状態の癌細胞のヒストン修飾、転写、代謝の統合理解を目指す。低酸素・低栄養で発現亢進する転写因子RORXやSREBX、ヒストン脱メチル化酵素による転写と代謝の統合解析を試みる。また、JMJD1AやJHDM1Dのin vivoにおける腫瘍増殖のメカニズムを癌細胞と宿主細胞との相互作用の観点からの解析も試みる。 (2)低酸素・低栄養における癌代謝物と代謝経路の解明。既に我々は、低酸素・低栄養において解糖系(Glycolysis)に依存しない代謝経路へのシフトと代謝物の亢進を様々な癌細胞に共通して起こることを発見しているが、この経路においてもトランスクリプトーム、メタボロームの統合解析、また、可能であればヒストンプロファイルとプロテオームの情報を用いての統合解析を試み低酸素・低栄養の癌代謝物において鍵となる代謝経路と代謝酵素の同定を試みる。 (3)現存する化学療法や分子標的治療法との併用における相乗効果の検討を上記(1)(2)でシステム解析を用いて導き出された標的分子や代謝経路をsi/shRNAなどの阻害もしくは過剰発現を用い現存する抗癌剤や分子標的治療薬との併用で相乗効果が認められるかをin vivo のマウスの実験系を駆使して検討する。 この様に、低酸素・低栄養に抵抗性な癌細胞を用いることにより、腫瘍微小環境適応反応を規定するシステムの鍵となる代謝経路等を解明することが可能となり新しい癌治療法の開発や創薬への応用に繋がる研究を行う。
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