研究実績の概要 |
癌の増殖と転移には腫瘍微小環境が重要な役割を果たす。本研究は低酸素・低栄養など癌の悪性化や治療抵抗性をもたらす腫瘍微小環境をシステムとしてとらえ、エピゲノム、トランスクリプトームおよびメタボロームという各階層のネットワークを統合する①新しい数理ネットワークモデルを構築し、癌の悪性化や治療抵抗性などを起こす腫瘍微小環境のシステム的統合理解に基づく治療法の開発に繋がる研究を目的とした。 研究成果として、(1)低酸素において解糖系やグルタミノリシスが亢進しIDH変異の有無に関わらずオンコメタボライト(2-HG)が蓄積すること。(2)低栄養もしくは低酸素・低栄養では解糖系に依存せず脂質分解系が亢進すること。(3)計算的手法によるメタボローム解析により蓄積した代謝物が腫瘍の増殖に寄与する新規のオンコメタボライトである可能性を発見した。 また、未発表の研究結果として、(1)メタボローム解析に関する新しい数理モデル(COMICS)を島村徹平先生と共同で構築し、測定不能な代謝物や流速を予測することが可能になりつつある。(2)オミクス統合解析技術により新しく腫瘍微小環境で蓄積する機能未知であった生理活性代謝物を幾つか同定し、その代謝経路、発現上昇酵素、エピゲノム修飾酵素の同定や腫瘍の悪性化の解明および治療への応用につながる研究ができた。 さらに、研究成果として、低酸素・低栄養という腫瘍微小環境において、エピゲノム修飾因子(JMJD1A)が血管新生や治療抵抗性などがんの悪性化を促進すること(Cancer Res. 2013), 低酸素・低栄養で悪性化した癌細胞を標的にすることが新しいがん治療法になることを論文報告した(Cell Cycle 2013)。本研究から腫瘍微小環境の変化に起因する治療抵抗性を持つ癌を克服する新しい制癌法の開発に繋がる研究が可能になることが期待される。
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