公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では、我々がこれまで明らかにしたストレス応答転写因子ATF3のシステムズ解析の知見に基づき、がん細胞と正常細胞のストレス制御ネットワークの特性を明らかにし、がん治療の基盤を理解することを目的としている。平成25年度は以下の成果を得た。1)我々は、Death receptor5 (DR5)がATF3の標的遺伝子であり大腸がん治療薬Camptothecinがp53, ATF3を誘導しPro-apoptotic受容体DR5を強力に誘導することを見出しているが(PLosONE 2011、Oncogene 2012)、p53変異を有するヒト大腸がんにおいて、ある種のnatural product(論文作成中)およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(BBRC 2014)がERストレス経路であるPERK-eIF2alfa-ATF4-CHOP-ATF3のカスケード応答を介してDR5を誘導することを示した。さらにヒトDR5アゴニスト抗体がこれらとの併用でがん細胞選択的細胞死を誘導することも確認した。2)視床下部特異的Atf3-KOマウスは、インスリン感受性亢進、やせ型とエネルギー消費の亢進を来たしグルコース耐性が優れていることから、ATF3の肥満、糖尿病への関与が示された(Diabetologia. 2013)。3)東大宮野研と連携し、p53, ATF3の単独あるいはダブルノックアウトマウス細胞MEFのDNA傷害応答の遺伝子発現制御のシステムズ解析を進めている。現在は解析と論文作成中の段階であるが、その一部を25年度分子生物学会発表を通じて成果を公表した。4)ストレス応答の網羅的遺伝子発現解析により、ATF3がWnt canonical経路の標的遺伝子であることを同定し、b-catenin変異を有するヒト大腸がんではATF3発現が亢進していることを見出した。興味深いことに細胞レベルでの解析から、ATF3は大腸がんの浸潤能を抑制していることが示唆された(平成25年度分子生物学会発表)。
2: おおむね順調に進展している
1)p53変異ヒト大腸がんにおいて、natural productとヒストン脱アセチル化酵素阻害剤がERストレス経路であるPERK-eIF2alfa-ATF4-CHOP-ATF3のカスケード応答を介してDR5を誘導することを示したことは大きな成果である。悪性度の高いp53変異がんは治療抵抗性のことが多いが、本経路を介したDeath receptorの細胞表面の誘導は、がん細胞選択的に副作用の少ない新たながん治療への開発に応用できる可能性がある。さらに、これまでもいくつか報告のあるヒトDR5アゴニスト抗体が併用療法においてがん細胞選択的細胞死を誘導することも確認できた。達成度は高いと判断した。2)視床下部特異的Atf3-KOマウスを用いた成果は、ATF3の肥満、糖尿病への関与を示しており新規性は高い。群馬大北村研主導の共同研究である。3)p53, ATF3の単独あるいはダブルノックアウトマウス細胞MEFのDNA傷害応答の遺伝子発現制御のシステムズ解析は遅れている。その理由は、システムズ解析の有効性を認識しながらも困難さが多いことによる。決して単純で直截な手法ではなく達成度はまだ6-7割程度である。4)ヒト大腸がんでのWnt-ATF3経路の亢進、b-catenin変異を有するヒト大腸がんでのATF3発現亢進、ATF3の大腸がんの浸潤能抑制は、preliminaryではあるが興味深い。
1)p53変異ヒト大腸がんにおいて、natural product(Zerumbone, Celecoxib)がROS(活性酸素)-ERストレスを惹起しPERK-eIF2alfa-ATF4-CHOP-ATF3のカスケード応答を介したDR5の転写を誘導すること、DR5アゴニスト抗体との併用療法がp53変異難治がんの効率よい細胞死を誘発する成果を完成させ論文発表する。本成果は、ストレス応答の網羅的解析とシステムズ解析によって得られた結果に基づいたものである。2)ATF3の視床下部特異的な機能については、生活習慣病である肥満や糖尿病の病態を明らかにするものであり新規性は高い。群馬大北村研主導の共同研究として進める。3)p53, ATF3の単独あるいはダブルノックアウトマウス細胞MEFのDNA傷害応答の遺伝子発現制御のシステムズ解析は、ストレス応答の転写制御の継時的変動を数理的手法によって解析するものであり、本新学術研究の中核的課題である。解析には困難さが多いことを痛感しているが、研究期間内に成果発表を行う。4)ヒト大腸がんでのWnt-ATF3経路の亢進、b-catenin変異を有するヒト大腸がんでのATF3発現亢進、ATF3の大腸がんの浸潤能抑制を見出した。その意義は、ATF3は、ヒト大腸がんにおいて活性化されているWntシグナルの標的遺伝子でありながら、Wnt経路をnegativeに制御し、結果としてがんの増殖、転移、浸潤を抑制するという仮説である。ATF3の機能を細胞レベルから個体レベルの解析およびATF3の標的遺伝子のシステムズ解析を進める必要がある。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (2件)
BBRC
巻: 445(2) ページ: 320-326
doi: 10.1016/j.bbrc.2014.01.184.
J Biol Chem.
巻: 288(34) ページ: 24302-24315.
10.1074/jbc.M113.496703.
Diabetologia
巻: 56(6) ページ: 1383-1393
10.1007/s00125-013-2879-z.
http://tmd.ac.jp/mri/bgen/research.html
http://tmd.ac.jp/mri/bgen/publications.html