研究領域 | システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発 |
研究課題/領域番号 |
25134714
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松本 雅記 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (60380531)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プロテオミクス / 癌 |
研究概要 |
本研究は細胞癌化のモデルを構築し、これに対して定量プロテオーム解析を中心としたトランスオミックス解析を行い、得られたデータを統合し、情報科学的手法によって解析することで、多様な細胞がん化ネットワークの実体とその動作原理を明らかにすることを目指す。 1)人工癌化モデル細胞の構築: ヒト正常細胞に対して各種癌関連遺伝子の導入によって人工的に癌化誘導を行うモデルシステムを構築した。ヒト正常細胞はマウス等の細胞に比べて単一癌原遺伝子導入では癌化しないことが知られている。そこで、TERT遺伝子とSV40遺伝子を導入した細胞にMyc, 活性型Akt, 活性型Rasなどを多重導入し癌化を誘導した。これら癌原遺伝子導入によって癌化を誘導した細胞では、形態変化、増殖能の亢進、足場非依存性、さらには癌細胞の代謝的特徴であるワーブルグ効果が観測された。 2) 情報基盤定量法による主要パスウェイ構成タンパク質測定: 情報基盤定量法』では組み替えタンパク質を用いてMS/MSスペクトル情報ライブラリーを取得し、これらの情報を元にして質量分析計を用いた選択的定量法であるMRM (multiple reaction monitoring) 法を実施する。既に18000種類の遺伝子(全タンパク質コード遺伝子の約8割をカバー)に関して、事前情報取得を終えデータベース化している。本研究では主にKEGGに登録されているパスウェイを構成するタンパク質(約2000種類)のデータを元に、測定のための各種パラメータ最適化を行う。 3)リン酸化プロテオーム: 正常細胞及び癌細胞からタンパク質を抽出し、酵素消化後、金属キレート樹脂に鉄イオンを結合させたアフィニティークロマトグラフィーによって高純度にリン酸化ペプチドを精製した。これらをLC-MS/MS解析することで、情報基盤定量法に必要なリン酸化情報を大規模に取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通りにH25年度において癌原遺伝子発現による人工癌化モデルの構築および代謝酵素を中心としたターゲットプロテオミクスの測定メソッド構築を実施し、比較的早い段階でプロテオーム解析を実施することができた。また、得られたデータを用いた数理モデル構築も予備的に進めており、次年度の研究を進めるための準備もH25年度中に整っている。さらには、次世代ヒト型ロボットによるサンプル調製の全自動化の準備もほぼ整っており、今後と研究効率化アップも期待される。現在のところ、研究計画に沿った実験とその関連研究を順調に遂行しており、今後も特に大きな技術的問題等は生じないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は以下の項目にそって研究を実施する。 1)人工発癌モデルのトランスオミクス解析:プロテオームの変化は、転写やメタボロームの変化と双方向性に密接に関連している。したがって、細胞癌化過程におけるタンパク質ネットワークの変化を解釈する上で、これらの関連階層の変化を計測し、プロテオーム情報との統合は有効である。前年度までに作製した人工発癌モデル細胞を対象にトランスクリプトーム, メタボロームなどの情報を階層横断的に取得する。 2)細胞癌化ネットワーク推定:これまでに得られた各種オミックスデータから、KEGG等の経路情報に基づいてがん化過程において影響を受けるパスウェイを抽出する。これらのパスウェイの数理モデルを構築する。得られたモデルを利用したシミュレーションを実施することで、細胞癌化状態を生み出す重要ネットワーク構造の推定や、複数の局所ネットワーク間の関連性を推定する(例えば、解糖経路と他の代謝経路との連動など)。 3)細胞癌化ネットワークの実験的検証:推定された癌化ネットワーク構造が細胞癌化に必要であるかを検証する必要がある。ネットワーク構成因子のノックダウンや過剰発現によってネットワーク状態を人為的に変化させた際の細胞癌化への影響を増殖速度や代謝状態、運動性などを指標に検証する。
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