実物の素材を用いて視覚性・触覚性の質感認知について、後頭葉を含む局所脳損傷患者において検討した。 【対象】後頭葉・頭頂葉病巣を含む局所脳損傷患者(脳血管障害、脳腫瘍術後)7名 【方法】実物の質感認知課題として6種類の素材(磁器、金属、ガラス、皮革、布、木の皮)を用いて、視覚性・触覚性に異同弁別、素材の同定、視覚-触覚マッチングを施行した。さらに、画像による視覚性質感認知、textonの認知、質感認知に影響しうる視覚、触覚機能についても検討した。 【結果】実物の視覚性および触覚性の質感認知障害を2例で認めた。両側後頭葉・右頭頂葉損傷例では、視覚性および触覚性に質感の弁別が不良であった。左一側の紡錘状回、舌状回、海馬傍回、視床に病巣をもつ1例においては視覚性、触覚性とも実物の質感弁別は可能であるにもかかわらず、何の素材か同定することができなかった。一方、右紡錘状回、舌状回損傷例および頭頂葉損傷例では実物での視覚性、触覚性の質感認知に明らかな異常を認めなかった。画像による視覚性質感認知は実物に比べてやや正答率は低下するものの、ほぼ同様の傾向を示した。視覚-触覚マッチング課題では言語を介する方略が多くとられたため、素材の呼称に関連する結果となった。textonの弁別の障害はいずれの症例でも認められなかった。 【考察】実物を用いて質感認知を検討した結果、視覚性の質感の弁別は両側後頭葉損傷で障害され、一側後頭葉損傷では障害されないこと、質感の同定は左紡錘状回・舌状回損傷で障害されることが分かった。以上より、視覚性質感認知は、視覚腹側路の中でも紡錘状回/舌状回で両側性に処理されるが、カテゴリー化して名前や意味記憶と連合する過程に左紡錘状回/舌状回が必須であることが示唆された。触覚性質感認知については今回の対象では明らかな結論が得られず、今後、頭頂葉前部損傷例を含めて検討が必要と考えられた。
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