研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
25135710
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 宏知 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (90361518)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 聴覚 / 大脳皮質 / 情動 / 誘発電位 / 局所電場電位 / 位相同期 / 微小電極アレイ / 視床 |
研究概要 |
任意の純音を組み合わせて和音を作ると,豊かな質感が生まれる.さらに,長調や短調といった調性のように,特定の周波数構造の音には情動的な質感も生じる.本研究では,音の質感や情動情報に依存する聴皮質活動に関して,(i) 聴皮質・視床の相互作用に注目して生成機序を解明し,(ii) 聴皮質 (聴覚系) と扁桃体 (情動系) の相互作用を検証することを目的として進めている. ラット聴皮質を対象にして,純音と和音に対する局所電場電位(LFP)を多点同時計測した.計測したLFPから,様々なの帯域における位相同期度(phase locking value; PLV)を算出し.その結果,長三和音のDPLVは,α,lowγ,highγ帯域で短三和音よりも大きかった.したがって,聴皮質の定常的な神経活動の位相同期には,協和性や調性といった,和音の質感が表現されている可能性があると考える. また,聴皮質・視床の相互作用を調べるために,ラットの聴皮質と視床で神経活動を3次元的に同時計測する実験系を構築し,その妥当性を電気生理学的な実験と組織学的な実験により示した.提案した実験系では,表面電極アレイで聴皮質の誘発電位を計測し,周波数マップを同定したうえで,刺入電極アレイで聴皮質の深さ方向の神経活動と視床の神経活動を計測する.なお,表面電極アレイと刺入電極アレイから同時計測するために,表面電極アレイに穴を設け,そこから刺入電極アレイを刺入した.評価実験の結果,本実験系は,聴皮質表面と任意の深さ,さらに,視床から神経活動の3次元多点同時計測を実現できることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,聴皮質と視床の内側膝状体 (MGB) 両領域に電極アレイを設置し,多点同時計測や電気刺激による誘発反応を精査し,さらに,これらの実験から,音の質感や情動情報に関わる神経現象の発生メカニズムを考察することを目的とした.そのための実験系として,当初の計画通り,刺入電極アレイと表面電極アレイを併用することで, (i) MGB の活動,(ii) 聴皮質の深さ方向の活動パターン,(iii) 聴皮質表面の活動パターンをすべて把握できる実験系を構築した.また,長調や短調といった音の情動的な質感が,ラットの聴覚皮質にも表現されていることを示した.これらの成果は,今後,聴覚皮質を中心とした音の質感を表現する脳内ネットワークを解明していくためのマイルストーンとなると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
音の質感や情動的な情報に関わる聴皮質の定常的な位相同期パターンが,どのように,視床や情動系と相互作用する可能性を検証する.まず,聴皮質と他部位の神経活動の相関関係や因果関係を調べる.さらに,聴皮質や視床,情動系を微小電気刺激したときの各部位の誘発反応から,聴皮質と扁桃体間の機能結合を定量化し,学習による可塑性や刺激音依存的なゲート効果を検証する.最後に,上記実験で明らかにした神経活動指標に基づき,音を作ることで,楽典のような経験的な音の知識を神経科学的に再検証・考察する.
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