短く簡潔な表現でありながら,材質から知覚した質感と快不快などの感性的評価まで多様な情報が表されるオノマトペの特長を活かし,従来の形容詞を用いて測定されてきた人の主観評価を定量化するために,2012~2013年度の質感脳情報学の助成を受け,オノマトペによって表される触感を中心とした材質感や感性評価値を推定するシステムを構築した.2014~2015年度の研究課題では,このシステムを活用し,視覚と触覚による材質感認知メカニズムにアプローチした.システムの活用成果例として,粘性知覚とオノマトペの関係に着目し,粘性画像推薦システムを構築した.直感的で柔軟な質感表現段であるオノマトペの音象徴性に注目し,被験者実験により,粘性感とオノマトペの音韻の関係を明らかにした.本研究で実施した被験者実験の結果から,オノマトペを構成する音韻と視覚的に知覚される粘性との間に有意な関係が認められ,子音では”g ”,”s ”,”z ”,”d ”,”n ”,”m”,母音では”a ”,”i ”,”u ”,”e ”,”o ”が粘性と有意に関係し,拗音,長音,促音の有無が粘性と有意に関係することを特定した.また,動画,静止画の違いが粘性知覚に影響すると仮定し,両者では観測される音韻に違いが認められるか検討し,観測される音韻の違いを明らかにした.これらの結果から人は視覚的に知覚される液体粘性の僅かな違いをオノマトペの音韻に反映させていると言える.この実験結果の応用の一例として,「どろどろ」した動画が欲しいといったユーザの直感的な表現に適した動画を推薦するシステムを構築した.その他,オノマトペと触素材の関係を個人の主観により操作可能にするシステムや,オノマトペによる質感カテゴリと画像特徴量の関係を用いた画像検索システム,オノマトペを絵本に自動挿入するシステムや,オノマトペによる快音作成支援などにも取り組んだ.
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