研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
25135719
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (60283470)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 視覚性短期記憶 / 素材質感 / 光沢 / 脳機能計測 / 長期記憶 |
研究概要 |
今年度は、質感の視覚性短期記憶、視覚性長期記憶、質感記憶の脳機能計測の3つのプロジェクトを進めた。質感の視覚性短期記憶については、光沢の心理物理次元のモデルに基づいて、鏡面反射率と粗さの2次元をパラメトリックに操作した刺激セットを用い、表面の光沢の視覚性短期記憶の精度測定実験を実施した。知覚マッチングと記憶マッチング条件を設定してその成績の低下率を記憶コストと定義し、同一照明条件と異種照明条件で記憶コストを比較すると異種照明条件では記憶コストが縮小することが分かった。このことは、照明条件に依存しない表面特性の記憶は、表面の画像特徴に比べて頑健である可能性を示唆する。また、記憶コストは、鏡面反射率と粗さでほぼ同一であり、光沢次元によらない一般的な記憶特性が存在する可能性を示唆する。質感の長期記憶実験については、物体の形状、素材質感、視点・光源の情報が相対的にどのように記憶されるのか、またこれらの記憶が独立に保持されるのか否かを検討することを目的とした。自然画像では、刺激画像が統制できないため、レンダリングソフトを用いて、大量の物体画像を作成し、さらに、形状、素材質感、視点の類似性が平均的にはそろうような画像セットを作成した。刺激セットが完成し、実験を開始する準備が整った。質感記憶の脳機能計測については、質感の知覚に関連するとされる下側頭葉と視覚性短期記憶保持に関与するとされる頭頂間溝が質感の短期記憶の際にどのような役割分担、また相互作用をするのかを検討することを目的とした。まず、行動実験課題を作成した。素材質感を個々の画像として記憶する場合と質感をカテゴリ的に記憶する場合を比較検討するために画像記憶課題とカテゴリ記憶課題を作成した。行動実験の結果、カテゴリ課題で有意に成績が低下したため、現在、課題難易度を揃えるために刺激の調整を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、当初から刺激作成、適切な実験パラダイムの開発にかなりの時間を必要とすることを想定していた。その意味で、まだ研究として完成したプロジェクトはないものの当初の予定におおむね沿っていると言える。質感の視覚性短期記憶については、実験系、刺激セット共に確立できたので、これからは本格的に様々な実験を実施して成果を挙げられることが見込まれる。脳機能計測実験についても、行動課題の開発過程において、課題難易度の調整に時間が取られているが、この作業は、脳機能計測実験から曖昧さのないデータを得るために不可欠であり、現時点で難易度調整のめどが立ちつつあることから計画の大きな遅延とはならないと思われる。質感の長期記憶実験は、当初の予定よりも刺激セットの作成に時間がかかり、その意味では、3つのプロジェクトの中では若干遅れ気味である。しかし、現在までに特徴の類似性等の調整もされたよく統制された刺激セットが完成しているので、今後は順調に実験を進めて行けると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
質感の視覚性短期記憶実験については、基本的なデータを得ることができたので、今後は記憶負荷(記憶する表面の数)と精度の関係、質感次元間の相関、符号化時間、保持期間の影響など、質感の短期記憶特性を体系的に検討していく。また、複雑な刺激特性の記憶の持つ特異性を明らかにするために、従来研究で行われていたような単純な刺激次元を用いた実験との比較検討を行う。質感の長期記憶実験においては、まず、基本データを収集するために形状、素材質感、視点の記憶成績の比較とそれらの相関関係の検討を行う。その結果を踏まえ、物体の長期記憶における物体の内在的特性(形状、質感)と環境要因による偶発的特性(視点・照明)の関係についての理論化を進めていく。質感記憶の脳機能計測においては、実験パラダイムを確立したのち、fMRI実験を実施する。脳機能計測においては、特に頭頂間溝と下側頭葉(特に紡錘状回)の活動に着目し、その活動強度を検討するとともに、両領域の活動の相関分析なども進める。
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