研究概要 |
H25年度では,単糸レベル(数10μm)の解像度での反射光および表面下散乱光を安定に観測できる画像計測システムを構築し,得られた高解像度多方向照明HDR画像を解析することにより,対象織物の表面および表面下の3次元微視的幾何構造と表面反射光および表面下散乱光の相関関係を解析した. 1.画像計測システム構築として,高解像度一眼レフカメラと拡大レンズを用いて,1画素サイズ5μmの 高解像度多視点多方向照明HDR画像計測システムを構築した. 次に,各画素において,分光スペクトルを推定するための,1画素サイズが7㎛の2ショット型6バンド画像撮影システムを構築した. 2.構築した画像計測システムを用いて,織物を高解像度画像計測した. 3.多視点多方向照明高解像度6バンドHDR画像(1画素サイズ7μm)を用いて, 織物の鏡面反射光の色変化を解析した. 3)-1.部分最小自乗法(PLS)を用いて,各画素のに基分光スペクトル(分光反射率)を推定した. 3)-2.多方向照明画像を用いて,鏡面反射が強いハイライト領域の正反射方向方向において,入射角の変化に対する鏡面反射光の変化を色度図上で追跡し,鏡面反射の色変化を解析した. 4.多視点多方向照明高解像度(3バンド)HDR画像(1画素サイズ5μm)を用いて,織物の表面下散乱光の解析した. 4)-1.2°刻みでプロジェクタを移動させ格子パターンを投影し,反射と散乱をHDR画像計測する.格子サイズを3×3, 5×5,7×7,11×11と拡大させ,表面反射および表面下散乱光の方向や強度の変化を解析した. さらに,それ以上の入射点からの距離に対しては,観測点を格子(黒)の中心としたパターンを投影し同様の解析を行った. 4)-2.入射点からの距離に対する表面下散乱の減少を分析し,表面下散乱の境界を推定する.さらに,表面反射分布,表面下散乱分布の指向性や強度の相関を評価し,織物の表面および表面下の微視的幾何構造との関係を解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.反射光の強さのダイナミックレンジが広い織物のメゾ構造を安定に計測するための2種類の多視点多方向高解像度画像計測システムを構築した. -織物の表面下散乱を高解像度に計測するために,NIKON一眼レフD4と拡大レンズを用いた画像計測システムを構築し,1画素5μmの高解像度の画像計測を達成. -織物の反射光を高解像度に計測するために,NIKON一眼レフD700を用いた2ショット型6バンド画像計測システムを構築し,1画素7μmの高解像度の画像計測を達成. -入射角・観測角・露光時間の計測制御プログラムの開発による自動画像計測を達成. 2.広い織物の分光スペクトル(分光反射率)を部分最小自乗法(PLS)を用いて,1画素7㎛で高精度に安定に推定することを達成した. -PLS推定における入力分光反射率と6バンド値の記述を色構成比(入力反射光の強度のスケールを除いてPLS回帰行列を推定し,後で推定分光スペクトルのスケールを戻す方法)として改良することにより,安定な分光スペクトル推定を達成. -反射光の強いグロスなカラーチェッカーを用いて,推定された鏡面反射光スペクトルが光源色に一致することを,色度図上で確認し,PLS推定精度を検証. 3.多視点多方向高解像度画像計測システムを用いて織物を観測し,鏡面反射光の色度変化の解析から,鏡面反射光は,光源色と物体色を含むことを確認した. -鏡面反射光の強度(色の明るさ)の変化に対して分光スペクトルのエネルギー量が増加し,色度図上では物体色の軌跡を追跡した結果,色味が増す傾向を確認した.また,分光計を用いた計測からも同様の結果を得た. 4.多視点多方向高解像度画像計測システムを用いて織物を観測し,表面下散乱光の解析から織物の表面下散乱は直交二軸の異方性を持つことを確認. -表面下散乱はおよそ200ピクセル(実寸値1mm)まで生じることを確認. -表面下散乱は反射光と同様に正反射において高い指向性を示すことを確認.
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今後の研究の推進方策 |
H26年では, H25年に引き続き,入力法を改良したPLS法を用いて推定した織物の分光スペクトルの解析を進める.まず,織物の鏡面反射の色を同定し,織物の鏡面反射光の色が何に起因されるのかを,織物の糸の透過性と織によるメゾ構造と併せて解析す.表面下散乱については,H25年度の画像解析に基づいて,単一散乱および多重散乱を分離し,それぞれのパラメータを抽出する.得られた結果を統合してモデル化し,表面下散乱も指向性を持つように二色性反射モデルの一般化を図る: 1.反射成分については,Ashikhminモデルを用いて鏡面反射パラメータを推定する. 2.表面下散乱成分についてはパーティシペーティングメディアにおけるライトトランスポート方程式を用いて減衰,吸収,散乱係数等パラメータを推定する. 3.多重散乱成分については,ダイポールモデルを用いて材質固有のパラメータを推定する. さらに, 4.H25年度の画像計測で得た対象織物の単糸,糸,織構造の幾何データと透過および屈折等物理パラメータを用いて,反射,単一散乱,多重散乱の振る舞いをシミュレートする織物の質感シミュレータを構築する. 最後に, 5.織物の3次元微視的幾何構造に基づく反射および表面下散乱のシミュレーションプログラムを作成し,推定したシミュレーション値との比較から,推定パラメータおよび提案する一般化二色性反射モデルの性能を評価する. 6.得られた結果を纏めて,学会発表及び論文投稿を進める.
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