研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
25136701
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
尾野 恭一 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70185635)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 心臓自動能 / シミュレーション / 肺静脈 / イオンチャネル |
研究概要 |
心臓自動能の源となる洞房結節細胞は、生理的なイオン環境において、その個体の心拍数とほぼ同じ律動的な収縮を繰り返す。洞房結節細胞が規則正しいリズムを刻むのは、生物時計と同じような「時を刻むしくみ」、つまりクロック機構が備わっているからと考えられる。現在、心臓自動能の元になるクロックには、イオンチャネルクロックおよび Caクロックの2つが提唱されている。イオンチャネルクロックは、細胞膜上のイオン輸送体の開閉が時間と膜電位に依存して変化し、膜電位が周期的な変化を刻む、というもので、古くから唱えられてきた。一方、Caクロックは細胞内Ca濃度が自発的かつ周期的に変動しているというものである。Caクロックは、増えたCa が細胞膜のNa-Ca交換輸送体によって細胞外へ排出される際に膜を脱分極させることで、洞房結節細胞の自動能へ関与している。 本研究は、心筋細胞が示す正常及び異常な自動能において、両者がどのように関与しているかを定量化することを目的として実験を重ねている。平成25年度は、マウス心臓自動能について電気生理学的解析をおこないつつ、並行してラット肺静脈心筋のノルアドレナリン誘発自動能が Ca クロックにより生じていることを明らかにしてきた。その中で、ラット肺静脈心筋には他の心筋細胞では見られない、全く新たなイオン電流が存在することを明らかにした。この電流は、一見洞房結節細胞に特徴的なペースメーカー電流に似ているが、ペースメーカー電流が陽イオン電流であるのに対し、肺静脈心筋で新たに見つかった電流系は陰イオン電流であり、イオン透過性が全く異なる。この電流系についての詳細な解析をおこなった。 肺静脈心筋の自動能はCaクロックが主体であるが、過分極活性化Cl電流の存在はイオンチャネルクロックの関与を示唆するもので、両者がどの程度関わりあっているのかが、次の課題と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「正常及び異常心臓自動能に関する生理実験とシミュレーション研究」の課題の下、過去3年間にわたって研究を行ってきた。正常自動能に関する研究として、生後発達に伴うマウスの心拍数変化の分子機序を明らかにする目的で、主として電気生理学的解析をおこなった。その結果、マウスの生後発達に伴う心拍数の増加には,自律神経による調節の他に洞房結節細胞の内因性自動能の亢進が関わることが示された。L型及びT型Ca2+電流の電流密度、キネティクスの変化が洞房結節自動能の生後変化に関与していることを明らかにした。 異常自動能として、ラット肺静脈心筋のノルアドレナリン誘発自動能に関する研究をおこない、正常自動能と比較しながら自動能の細胞機序についていくつかの新たな知見を得ることができた。その結果、洞房結節の自動能が主としてイオンチャネルクロックにより機能しているのに対し、肺静脈心筋の自動能はCaクロックが主体であることが明らかとなった。さらに、肺静脈心筋には、他の部位には見られない、全く新たなCl電流が存在することを見出した。 当初、細胞レベルの解析とともに、シミュレーションモデルの作成を平行して行う予定でいたが、肺静脈心筋に新たなイオン電流が見つかったことで、電気生理学的な実験を集中的におこなうことにした。そのため、シミュレーションモデル作成が当初の予定より若干遅れていることは否めない。ただし、ここ2,3年でシミュレーションモデル作成のプラットフォーム開発や、細胞内小器官でのCa動態や細胞内分子の挙動について、領域内から新たな情報が加わったことで、今後シミュレーションモデルの作成が加速すると思われる。年度内の完成を目指して実験を継続していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、ラット肺静脈心筋の電気活動及び自動能をコンピュータ上で再現するための具体的作業を行う。領域の他班では 既にシミュレーション用のプラットフォームPhysioDesignerが開発されており、これを用いることで、より汎用性の高いシミュレーションモデル作成を目指す。前回(平成26年3月)行われた班会議に置いて、立命館大学の天野教授らとのグループと共同でシミュレーションモデルを開発していくこととした。Caクロックをシミュレーションに組み込むには、細胞内Ca貯蔵庫と細胞膜、あるいはIP3受容体とNa/Ca交換体との機能的共関など、細胞内微細構造に関する情報が不可欠であるとともに、それらを組み込んだシミュレーションを構築する必要がある。既に、参考となる研究成果がいくつか報告されており、天野教授らが開発したものも含まれている。互いに情報交換することで、プログラム作成のスピードアップを図り、今年度中の完成を目指す。 シミュレーションモデルの基礎となるモデルは、過去に報告された心筋細胞のモデルをピックアップし、それを元に改良を加える。既に、6種類のモデルについて検証作業に入っている。肺静脈心筋に特徴的な電気生理学的性質、とりわけK電流、背景電流、ポンプ電流等については引き続き実験を行うことで、定量的情報を収集する。また、シミュレーションモデルは適宜電気生理学的実験にフィードバックしてアップデートを繰り返しつつ、実験データを忠実に再現できるモデルを目指す。
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