研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
25136713
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 祐一郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20532980)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イオンチャネル / レドックス / プロトンチャネル / 血球細胞 |
研究実績の概要 |
白血球が病原体を貪食し活性酸素を利用して退治する「自然免疫」は最も基本となる生体防御機構である。“武器”として使われる活性酸素は時として様々な疾病を誘発する“毒”ともなりうる生体内小分子である。そのため生体が活性酸素を利用するには多階層にわたる厳密な制御機構の存在が必要不可欠となる。本申請では生体で活性酸素を産生し利用している代表的なシステムである免疫系貪食細胞において、活性酸素産生制御に関わるH+チャネルに注目して、原子構造レベル・分子細胞レベル・組織臓器レベルと多階層に渡る機能解析を行い、生体におけるH+チャネルを介した生体防御機構を明らかにする目的で行う。 本年度の達成: (構造機能レベル)VSOPチャネルの膜貫通領域の結晶構造解析に成功し、生理的ブロッカーである亜鉛の結合する部位を明らかにし、国際誌に発表した。細胞内領域と膜貫通領域が一連のヘリックスによるしっかりとした構造により連絡していることを明らかにした。これは、細胞内の温度・酸化還元センサーからチャネル機能の根幹である膜貫通領域への機能的連絡に適した構造となっていることを示唆する。国際誌に発表した。 (分子細胞レベル)酸化還元や亜鉛濃度といった環境要因が貪食細胞に発現したVSOPの機能、および活性酸素産生量、顆粒放出に与える影響を定量的に解析した。 (組織臓器レベル)VSOPの免疫応答レベルでの機能(好中球の活性酸素産生、顆粒放出、遊走能、貪食能)を野生型、ノックアウトマウスの好中球を用いて解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
膜蛋白質の構造解析は一般的に非常に難易度が高い。本研究では、これまで誰も成し遂げなかったVSOPチャネルの分子構造の解析に成功し、権威ある国際誌に発表した。 免疫細胞を用いた細胞機能の解析を行い、活性酸素産生量が野生型と比較してVSOPノックアウトマウスで異なることを新規に見いだした。 ノックアウトマウスの解析から、免疫システムの中核を担う好中球による細菌消化にVSOPチャネルが寄与していることを新規に明らかにした。 このように、本研究領域の標榜する多階層に渡る解析を行い、十分な成果を上げた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた知見を発展させ、VSOPチャネルの分子構造と外的要因による機能修飾機構、好中球の異物消化除去システムにおけるVSOPの役割を「定量的に解析」する。 (1.分子構造レベルでの機能解析)解かれたVSOPチャネルの膜貫通領域の結晶構造を基にして、シミュレーション班と適宜共同し、分子動力学的解析を行ない、H+透過(水のタンパク内侵入)、構造の安定性、チャネルの開閉をシミュレーションする。シミュレーションの結果を基にした電気生理学的機能解析を行い、両者の融合を図る。 (2.細胞レベルでのチャネル機能)これまでの分子レベルでの研究から、VSOPチャネルの細胞内領域構造は温度、酸化還元に応答して変化することが明らかになった。これら外的修飾因子は実際の貪食細胞膜上に発現するVSOPを介した細胞機能を解析するため、VSOPの発現する血球細胞あるいはその培養株を用いて、 細胞内pHの変化や膜電位の変化をイメージング技術を用いて定量的に解析する。 (3.組織・臓器レベルでの免疫機能)好中球の免疫能に対する寄与解明を目指して、WT及びKOマウス好中球の走化性、貪食能、顆粒放出能について、動的イメージング、電気生理学技術を用いた解析を行う。 (4.生体レベルでの統合的理解)生体で活動する貪食細胞における活性酸素産生の調節機構を統合的に理解することを目的として、実験結果から得られた数値を元にしてシミュレーションを行う。電位依存性H+チャネルであるVSOPの分子特性とそれを取り巻く環境(発現局在、分子密度、酸化還元、温度、pH、膜電位)により活性酸素産生がどのように調節されているかを理解する。
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